実験レポート(Diels-Alder)(up)

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    資料紹介

    <結果>
    (収量と収率)
    (試料2の融点測定)
    融解開始温度:182℃ 
    融解終了温度:186℃       文献値:175℃
    (試料4のTLC)
    (Rf値)
    [0 min]
    ① 0.46
    ② 0.46
    ③ 0.46
    [45 min]
    ① 0.41
    ② 0.20 0.41 0.59
    ③ 0.06 0.41 0.59
    [15 min]
    ① 0.5
    ② 0.5
    ③ 失敗
    [60 min]
    ① 0.44
    ② 0.06 0.44 0.59
    ③ 0.06 0.44 0.59
    [30 min]
    ① 0.35
    ② 0.06 0.35 0.65
    ③ 0.09 0.35 0.65
    <考察>
    (1日目の実験)
    試料1から試料2を生成する際、収率がわずか66.6%であった。この原因の一つは吸引濾過の段階だろう。ろ紙についた試料をうまくとれない、試料をブフナー漏斗に移す際に容器に試料が残ってしまうことが考えられる。これは試料をブフナー漏斗に移す際に、水で試料を溶解する回数を増やすこと、吸引濾過の回数を増やすことで改善ができる。
    しかしながら一番の原因は加熱還流中にリービッヒ冷却管とナス型フラスコがしっかり結合されていなかったことだろう。そのため蒸発した試料の一部が隙間から系外に逃げてしまったと考えられる。この点は2日目の実験でTAに指摘されたため、2日目の実験では改善されている。
    試料1に対する実験では、試料1が水分子によって開環する反応が起こると考えられる。
    試料2は白色針状結晶であった。
    この試料2と推測される物質は融点が175℃であるので、融点測定の結果とも矛盾がない。
    (2日目の実験)
    試料2を秤量し直すと、2.6gしかなかったので、38班から0.34g補充して実験を行った。試料2に対する実験では濃硫酸を触媒とするメタノールとのエステル化反応が起こると考えられる。
    この反応は脱水反応なので、系に水が存在すると反応が阻害され、試料4→試料2の逆反応が生じてしまう。そのために、加熱還流の際にリービッヒ冷却管の上部に塩化カルシウム管を取り付けた。塩化カルシウムは脱水剤である。しかしながら、塩化カルシウムは連続して用いることができないので学生実験には不適である。そのため、今回は沸石を代わりに用いたが、水は完全に遮断できないので、どうしても試料2が残ってしまう。
    加熱還流の後に、水とエーテルを加えて分液して、水層を除去した。水層には残ったメタノールと硫酸の反応物硫酸ジメチルや硫酸が僅かに溶けているからである。その後、残った有機層にNaHCO3を加えて水層を除去した。水層には、試料2のナトリウム塩と硫酸ナトリウムが溶けているからである。そしてMgSO4で水分を除去した後、濾過した。濾過液をエバポレーターで減圧蒸留し、残ったメタノールを除去する。そして乾燥したフラスコで秤量する。水分を極力入れない理由は次の反応でも水が反応を阻害するからでもある。濾過時に少しこぼしてしまったので、本来ならもう少し収率は高かったのかもしれない。
    試料4に対する実験では、ナトリウムメトキシドが塩基として試料4のα水素(カルボニル基に隣接した炭素上の水素)を攻撃することでケト-エノール平衡が移動し、異性化が起きる、つまりエンド型からエキソ型に変わる。
    しかしながら2箇所ともエキソ型に変わると立体障害のために不安定になるので、片方のみ反応は進行すると考えられる。また、この反応は平衡反応であるので反応物もある程度残ると思われる。基本的にエキソ型よりエンド型の方が安定なので、その量は少なくないと考えられる

    資料の原本内容

    <結果>
    (収量と収率)
    (試料2の融点測定)
    融解開始温度:182℃ 
    融解終了温度:186℃       文献値:175℃
    (試料4のTLC)
    (Rf値)
    [0 min]
    ① 0.46
    ② 0.46
    ③ 0.46
    [45 min]
    ① 0.41
    ② 0.20 0.41 0.59
    ③ 0.06 0.41 0.59
    [15 min]
    ① 0.5
    ② 0.5
    ③ 失敗
    [60 min]
    ① 0.44
    ② 0.06 0.44 0.59
    ③ 0.06 0.44 0.59
    [30 min]
    ① 0.35
    ② 0.06 0.35 0.65
    ③ 0.09 0.35 0.65
    <考察>
    (1日目の実験)
    試料1から試料2を生成する際、収率がわずか66.6%であった。この原因の一つは吸引濾過の段階だろう。ろ紙についた試料をうまくとれない、試料をブフナー漏斗に移す際に容器に試料が残ってしまうことが考えられる。これは試料をブフナー漏斗に移す際に、水で試料を溶解する回数を増やすこと、吸引濾過の回数を増やすことで改善ができる。
    しかしながら一番の原因は加熱還流中にリービッヒ冷却管とナス型フラスコがしっかり結合されていなかったことだろう。そのため蒸発した試料の一部が隙間から系外に逃げてしまったと考えられる。この点は2日目の実験でTAに指摘されたため、2日目の実験では改善されている。
    試料1に対する実験では、試料1が水分子によって開環する反応が起こると考えられる。
    試料2は白色針状結晶であった。
    この試料2と推測される物質は融点が175℃であるので、融点測定の結果とも矛盾がない。
    (2日目の実験)
    試料2を秤量し直すと、2.6gしかなかったので、38班から0.34g補充して実験を行った。試料2に対する実験では濃硫酸を触媒とするメタノールとのエステル化反応が起こると考えられる。
    この反応は脱水反応なので、系に水が存在すると反応が阻害され、試料4→試料2の逆反応が生じてしまう。そのために、加熱還流の際にリービッヒ冷却管の上部に塩化カルシウム管を取り付けた。塩化カルシウムは脱水剤である。しかしながら、塩化カルシウムは連続して用いることができないので学生実験には不適である。そのため、今回は沸石を代わりに用いたが、水は完全に遮断できないので、どうしても試料2が残ってしまう。
    加熱還流の後に、水とエーテルを加えて分液して、水層を除去した。水層には残ったメタノールと硫酸の反応物硫酸ジメチルや硫酸が僅かに溶けているからである。その後、残った有機層にNaHCO3を加えて水層を除去した。水層には、試料2のナトリウム塩と硫酸ナトリウムが溶けているからである。そしてMgSO4で水分を除去した後、濾過した。濾過液をエバポレーターで減圧蒸留し、残ったメタノールを除去する。そして乾燥したフラスコで秤量する。水分を極力入れない理由は次の反応でも水が反応を阻害するからでもある。濾過時に少しこぼしてしまったので、本来ならもう少し収率は高かったのかもしれない。
    試料4に対する実験では、ナトリウムメトキシドが塩基として試料4のα水素(カルボニル基に隣接した炭素上の水素)を攻撃することでケト-エノール平衡が移動し、異性化が起きる、つまりエンド型からエキソ型に変わる。
    しかしながら2箇所ともエキソ型に変わると立体障害のために不安定になるので、片方のみ反応は進行すると考えられる。また、この反応は平衡反応であるので反応物もある程度残ると思われる。基本的にエキソ型よりエンド型の方が安定なので、その量は少なくないと考えられる。
    反応物と生成物が共存することはTLCの結果からも分かる。今回のTLCでは、加熱還流前にsamplingした試料を左の2点に、加熱還流した試料(0分~60分)を右の2点にスポットした。この5枚に共通してRf値0.4~0.5の辺りに3点共スポットが見られる。そして30分後のTLCから右の2点の上部、Rf値0.6前後に新たなスポットが検出されている。このことから、Rf値0.4~0.5のスポットが試料4であり、Rf値0.6前後のスポットが試料5であることが分かる。すなわちこれは、試料4より試料5の方が極性が低いことを示唆しているが、試料4ではカルボキシル基が同じ方向を向いているのに対し、試料5ではカルボキシル基が逆の方向を向いていることから適当であると考えられる。
    また、0分と15分のTLCにおいてスポットが明瞭に検出されていないが、これはキャピラリ-の不具合によって試料を十分に付加することができなかったためである。その後キャピラリーを変えたところ明瞭に検出できるようになった。
    この検出方法として、今回はヨウ素を用いた。ヨウ素は炭素の二重結合に付加して発色する。また、展開溶媒をTLCの上端まで浸してしまったものもあるので、少しデータが不正確であるかもしれない。
    また、ナトリウムメトキシドは吸湿性が高く、水が系に存在するとNaOHとMeOHになってしまう。加熱還流の際に、塩化カルシウム管(沸石)を最初付け忘れていたので、反応が遅くなってしまったかもしれない。
    <課題>
    1.「シクロペンタジエンと無水マレイン酸からできた主生成物がエンド付加物である理由を示せ。」
    1,3-シクロペンタジエンは4つのπ電子を持った物質であり、無水マレイン酸は2つのπ電子を持っている物質であるので、両者はDiels-Alder反応を引き起こす。一番単純なDiels-Alder反応、つまり1,3-ブタジエンとエテンの反応では20%程しかこの反応が進まないが、今回の反応ではジエンに炭素鎖が1つ余分に付いていることで電子が豊富になり、アルケンにカルボニル基が付いていることで二重結合が電子不足になるためにこの反応は促進される。生成物にはエンド型付加物とエキソ型付加物が考えられるが、ジエンとアルケンに新しくできる単結合において両者の軌道の重なり合いが最大になるように反応は進む。つまり、立体的及び電子的な効果によりエンド型の方がエネルギー的に低く安定するために主要生成物はエンド型となる。
    2.「生成物4から5の反応における推進力が何であるか。さらになぜこの段階で反応がとまるのか。」
    試料4のα水素はカルボニル基の電子吸引性により、またはエノラートイオンが共鳴により安定であるため酸性度が高く、NaOMeの-OMeが強塩基なので脱プロトン化を行い、試料4はエノラートイオンになる。エノラートイオンはケト形にもエノール形にもなるが、エノール形はエネルギーが高く不安定なので、ケト形になる。しかしながら、二重結合を作ると立体配座は消えるので、プロトン化が2方向から行われるため、2種類のケト形が生じる。試料4はα水素が2つあるため、全部で4種類のケト形が生じる。
    しかしながら④は立体障害が他より大きく不安定なので、立体異性化は主に片方で止まり、この反応は①と②、③の平衡反応となる。そのため秤量をしてはいないが、していたら収率は低かったと思われる。
    3.「4から5をつくる反応における主要な副生成物は何か。どのようにそれをとりのぞけるか。」
    この反応は、系に水が存在しない条件で行うのが理想的だが、塩化カルシウム管が沸石ということもあり、どうしても水が入ってしまう。水が存在するとNaOMeが反応し、NaOHが生じる。このNaOHが試料4,5のエステルをアルカリ加水分解すると考えられるので、主要な副生成物は①~③のNa塩である。
    これらは水溶性であるので、エーテルで有機層と水層に分液した際に水層を取り除くことで除去できる。
    4.「6に3を作る反応条件(濃硫酸)を作用させると生成物として何を得られるか。」
    試料6は、試料5のエステルをNaOHでアルカリ加水分解して、微量の硫酸でそのNa塩をカルボン酸にしていると考えられる。試料3を作る反応では、試料2のヒドロキシル基が自身の炭素二重結合を攻撃して環構造を作る。試料6は、試料2の異性体なので同様の反応をすると思われる。また、環化する方は立体構造的にエンド形であると考えられる。
    5.「ケト・エノール平衡を説明せよ。」
    α炭素上に一つ以上の水素原子をもつカルボニル化合物(ケト互変異性体)は相当するエノール(エノール互変異性体)と速い速度で相互変換する。共鳴は電子配置が異なっているのに対して、互変異性体は原子の配列が異なっている。
    大部分のカルボニル化合物は平衡状態でほとんど一方的にケト形として存在している。エノールは平衡でわずかに存在しているだけである。
    6.「Diels-Alder反応を用いて以下の5つの合成スキームを示せ。」
    Diels-Alder反応の後に、エノール性水酸基は不安定であるためにケトンに変わる。
    Diels-Alder反応を起こすためには、電子豊富なジエン構造を持つ物質と電子不足なアルケン(アルキン)構造を持つ物質を反応させることが必要である。
    試料2
    試料1
    試料2
    試料4
    or
    試料4
    試料5
    一定時間(0min~60min)加熱還流した試料
    加熱還流前にサンプリングした試料

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