無料公開⑰【慶應通信】2023年度 民法総論【第Ⅲ回科目試験(S評価)】

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    資料紹介

    慶應通信 2023年度 第Ⅲ回科目試験(S評価)

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    資料の原本内容

    科目名:民法総論/2023年度第Ⅲ回科目試験(再現答案)
    (設問1)
    弁済期から5年を経過する前に、Bが、Aに対して、本件貸金債権の弁済の猶予を求めた場合
    第1 設問1-債務の「承認」
    1.問題の所在
    本件において、AはBに対して100万円を貸し付けていることから、AB間に金銭消費貸借契約が成立し(民法587条)、AはBに対して本件貸金債権を有している。そして、本件貸金債権は「債権者が権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)である弁済期から「5年間」を経過すれば、消滅時効が完成する(民法166条1項1号)。
    ところが、本件では、弁済期から5年を経過する前に、BはAに対して弁済の猶予を申し出ている。
    そこで、BのAに対する上記申出が、民法152条1項の「承認」に該当するかが問題となる。
    2.判断枠組み
    この問題について、民法152条1項の「承認」とは、時効の利益を受ける当事者が、時効によって権利を失う者に対して、当該権利の存在を認識している旨を表示することをいう。そして、明示的な承認だけでなく、権利の存在を認識し、当該認識を表示したと認めることのできる行為も「承認」に該当する。
    3.本件の検討
    本件において、BのAに対する弁済の猶予の申出は、本件貸金債権の存在を認識し、当該認識を表示したと認めることのできる行為といえるから、民法152条1項の「承認」に該当する。
    したがって、Bによる上記申出時に、本件貸金債権の消滅時効が更新される(民法152条1項)。
    4.結論
    以上より、弁済期から5年を経過した時点で、AがBに対して本件貸金債権の履行請求をしても、BはAに対する弁済の猶予の申出により当該債権の消滅時効が更新されているので、Bは当該債権の履行を拒絶することができない。
    (設問2)
    弁済期から5年を経過した後に、Bが、Aに対して、弁済期から5年を経過していることを知った上で本件貸金債権の弁済の猶予を求めた場合
    第2 設問2-時効利益の放棄
    1.問題の所在
    本件では、弁済期から5年経過後に、BはAに対して本件貸金債権の消滅時効の完成の事実を認識した上で弁済の猶予を申し出ている。
    そこで、BのAに対する上記申出が、民法146条の時効利益の放棄に該当するかが問題となる。
    2.判断枠組み
    (1)時効完成と時効援用・放棄の関係
    前提として、時効効果の発生における時効完成(民法162条、163条、166条)と時効援用(民法145条)・放棄(民法146条)の関係について、様々な見解がある。
    本件では、民法145条・146条の趣旨が時効完成による権利取得・権利消滅という時効利益の享受を当事者の意思に委ねている点にあることを考慮して、時効完成によって権利取得・権利消滅という時効の効果が不確定的に発生し、「当事者」による時効援用によって時効の効果が確定的に発生する、放棄によって時効の効果が確定的に発生しないと理解する(停止条件説)。
    (2)時効利益の放棄の意思表示
    上記の通り、時効利益の享受は当事者の意思に委ねられているので、時効利益の放棄の意思表示は、債務者が時効完成を認識していることが前提といえる。
    3.本件の検討
    本件において、BのAに対する弁済の猶予の申出は、本件貸金債権の消滅時効の完成後に、当該時効完成の事実を認識した上で行われているので、時効利益の放棄に該当するといえる。
    4.結論
    したがって、弁済期から5年を経過した時点で、AがBに対して本件貸金債権の履行請求をしても、BはAに対して弁済の猶予の申出により当該債権の消滅時効の完成による時効利益を放棄しているので、Bは当該債権の履行を拒絶することができない。
    (設問3)
    弁済期から5年を経過した後に、Bが、Aに対して、弁済期から5年を経過していることを知らずに本件貸金債権の弁済の猶予を求めた場合
    第3 設問3-時効援用権の喪失
    1.問題の所在
    本件では、弁済期から5年経過後に、BはAに対して本件貸金債権の消滅時効の完成の事実を認識せずに弁済の猶予を申し出ている。そうすると、弁済の猶予の申出により本件貸金債権の消滅時効の完成による時効利益を放棄したとはいえない。
    そこで、時効完成後に、債務者が時効完成の事実を認識せずに、弁済の猶予を申し出た場合、債務者は時効の援用をすることができるかが問題となる。
    2.判断枠組み
    (1)旧判例の構成-自認行為よる時効完成認識の推定
    この問題について、旧判例は、時効完成の事実を認識していなければ、時効利益を放棄することはできないとしつつも、時効期間の経過により時効が完成することは周知のことなので、時効完成後に弁済の猶予を申し出た事実から、債務者が時効完成の事実を認識していたと推定することができると理解していた。
    したがって、旧判例は、債務者から上記推定を覆す反証のない限り、弁済の猶予を申し出たことによって時効利益が放棄されたと解していた(自認行為よる時効完成認識の推定。大判大6・2・19民録23輯311頁、最判昭35・6・23民集14巻8号1498頁)。
    (2)旧判例に対する批判
    旧判例に対しては、時効完成を認識していれば時効利益を放棄しないのが通常であるから、債務者が弁済の猶予を申し出た事実から債務者が時効完成の事実を認識していたと推定することはできないと強い批判がなされた。
    (3)現判例-信義則による時効援用権の喪失
    そこで、現判例は、時効完成後に債務者が債務の存在を承認したにもかかわらず、債務の時効消滅を主張することは矛盾行為といえるし(矛盾行為の禁止)、債務者の自認行為により債務者はもはや時効援用しないと考えた相手方の信頼を保護する必要があることから(相手方の信頼保護)、債務者が時効完成後に弁済の猶予を申し出た場合、債務者が時効完成の事実を認識していなかったとしても、信義則上、時効の援用をすることができないと解した(信義則による時効援用権の喪失。最判昭41・4・20民集20巻4号702頁)。
    3.本件の検討
    本件において、BのAに対する弁済の猶予の申出は、本件貸金債権の消滅時効の完成後に、当該時効完成の事実を認識せず上で行われているので、時効利益の放棄に該当するとはいえない。そして、本件貸金債権の消滅時効の完成後にBが当該債権の存在を承認しているので、BはAに対して信義則上、本件貸金債権の消滅時効の援用をすることができない。
    4.結論
    したがって、弁済期から5年を経過した時点で、AがBに対して本件貸金債権の履行請求をしても、BはAに対して信義則上、本件貸金債権の消滅時効の援用をすることができないので、Bは当該債権の履行を拒絶することができない。
    以 上
    <参考文献>
    ① 潮見佳男『民法総則講義』(有斐閣、2005年)
    ② 潮見佳男『民法(全)〔第3版〕』(有斐閣、2022年)
    ③ 山本敬三『民法講義Ⅰ 総則〔第3版〕』(有斐閣、2011年)

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