これらの2つの事件の判決はどちらも同じく原告側が棄却されている。大阪地裁の原告側は大阪高裁への控訴を表明しており、札幌地裁の原告側は今年の3月31日に札幌高裁に控訴している。この他にも、東京、名古屋、福岡の各地裁でも係争中である。今後の動向が気になるところだ。
2022 年 6 月 26 日
同性婚についての判決
~大阪地裁判決と札幌地裁判決~
中東 幸智
〈それぞれの概要〉
事件番号
事件名
主文
大阪地裁判決
札幌地裁判決
平成 31 年(ワ)第 1258 号
平成 31 年(ワ)第 267 号
損害賠償請求事件
損害賠償請求事件
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
これらの 2 つの事件の判決はどちらも同じく原告側が棄却されている。大阪地裁の原告側は大阪高裁
への控訴を表明しており、札幌地裁の原告側は今年の 3 月 31 日に札幌高裁に控訴している。この他に
も、東京、名古屋、福岡の各地裁でも係争中である。今後の動向が気になるところだ。
〈2 つの裁判の相違点〉
① 何条が争われたのか
24 条 1 項、2 項及び 13 条については多少の争いはありつつも、大阪地裁、札幌地裁ともに合
憲とした。大阪地裁と札幌地裁で判断が分かれたのは憲法 14 条 1 項の法の下の平等の部分である。
大阪地裁では合憲とされた一方で、札幌地裁では合理的な根拠を欠く差別的な取り扱いに当たるとし
て、違憲であると判断された。
大阪地裁は同性婚の制度が確立されていない現状を特定の性的指向を有することを理由に婚姻を
禁止しているものではないとした。また、国会の合理的な立法裁量の範囲を超えたものであるとは直
ちには言い難いとの判断を下した。一方で、札幌地裁は、異性愛者は婚姻して法的効果(利益)を享
受するか、婚姻せずに法的効果を享受しないかを選択することができることに対し、同性愛者にはそ
れができないとした。また、同性愛者がその性的指向と合致しない異性との間で婚姻することができ
るとしても、それをもって異性愛者と同等の法的利益を得ているとみることができないのは明らか
との判断を下した。
2022 年 6 月 26 日
私はどちらにも説得力を感じたが、特に札幌地裁の方が事実に即していると感じた。たしかに憲法
で、婚姻を禁止しているわけではないが、事実として、同性愛者と異性愛者の間には大きな法的権利
の差が生じているように感じる。しかし、広い立法権の裁量に任せるべきであるという大阪地裁の意
見も、納得できる。
② アンケート結果の捉え方
両裁判ともに様々なアンケートの結果により同性婚への賛成が過半数以上得られていることを認
めた。札幌地裁はこの結果を性的指向による区別取り扱いを解消することを要請する国民意識が高
まっているとしている。それに対し、大阪地裁はこの結果は同性婚の意味が統一的に捉えられていた
とは必ずしも言い難いとしている。そして、法律上で同性愛者をどのように保護していくのはまだ議
論の途上にあるとした。
私は大阪地裁の意見に説得力を感じた。民法はやはり、異性間の婚姻を前提として制定されたもの
であるだろう。それ故に現行民法の婚姻で制度の中で同性婚を認めてしまうと問題が生じる可能性
がある。少し飛躍し過ぎかもしれないが、近年の離婚を咎めない風潮や夫婦別姓の議論、女性の再婚
期間の短縮及び撤廃の議論なども合わせて考えると、結婚そのものが気軽にできる世の中になって
しまうと考えられる。例えば、恋愛感情のない同性友人同士でも気軽に婚姻が可能になる。裁判所や
行政機関には両者間の間に愛情があるかを判断することはできないからだ。すると、法的利益(税金
の控除や、在留資格、公営住宅の入居資格など)を目的とした形だけの婚姻にもつながる可能性があ
る。これらは婚姻という制度の根幹を揺るがすことになるだろう。このような理由から同性婚にはよ
り議論が必要だと考える。
③ 民法上の制度は婚姻の代替となり得るか
大阪地裁は同性カップルが享受し得る利益が、異性カップルが婚姻により享受し得る法律上の効
果に及ばないことは確かであるとしつつも、民法上の制度等を用いることによって、一定の範囲では
同等の効果を受けることが可能であるとした。一方、札幌地裁は婚姻と契約や遺言は,その目的や法
的効果が異なるものといえるから、契約や遺言によって個別の債権債務関係を発生させられること
は,婚姻によって生じる法的効果の代替となり得るものとはいえないとの見解を示した。
私は札幌地裁の方が現実に即していると感じた。登録パートナーシップ制度を利用したり、民法上
の制度を用いたりしたとしても婚姻関係のあるものにしか効果を享受できないもの(税金の控除や、
在留資格、公営住宅の入居資格など)がある故に、同性愛者と異性愛者の間には大きな権利の壁を感
じざるを得ない。よって、民法上の制度は婚姻の代替となり得ることはないと考える。
2022 年 6 月 26 日
④ 国家賠償法 1 条 1 項の適用上違法であるか
国家賠償法 1 条 1 項には国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについ
て、故意又は 過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する
責に任ずるとある。
大阪地裁は当然、同性婚の制度がないことは違憲ではないため、賠償の必要はないとしている。一
方、札幌地裁は同性婚の制度がないことが憲法 14 条 1 項に違反するとしつつも、国会において違反
を直ちに認識することは容易でなかったとして賠償の必要はないとした。
大阪地裁は同性婚の制度がないことは合憲、札幌地裁は違憲と憲法判断は分かれたものの、結局ど
ちらも賠償責任はないとされた。よって、主文は両裁判とも同じものになったが、その内容をみると
2 つの裁判は大きく乖離したものであることがわかる。