不法行為:交通事故 論点まとめ

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    資料紹介

    未成年者が無免許運転で人身事故を起こした場合、問題となる点を事例をもとに検討する。

    資料の原本内容

    交通事故 事例
     中学2年生の甲と乙は、毎晩のようにそれぞれの両親の目を盗んでは、夜中に二人で遊んでいた。やがて二人は、自転車の窃盗や運転をしたり、車内の物品を盗んだうえで放置する行為を繰り返すようになった。11月23日の深夜、甲は、路上に鍵をつけたまま駐車してある小型車両を盗み、乙宅へ運転して行き二人で朝の4時頃まで乗り回した。次の日学校で会った二人は、遠くの街までドライブに行くことにした。なお、本件車両は塗装会社丙社がリース会社丁社と契約をしているリース車両であった。
     25日の朝、甲は車を運転して乙宅までを迎えに行き、乙を助手席に乗せてドライブに出かけた。しかし、乙は途中でパトカーを発見し、自分たちを捕まえようとしていると誤信し、甲に「逃げろ」と告げ、更に警察の検問を発見したため、甲はあわてて車両を加速させたところ、道路工事現場で交通整理員として立っていた戊に衝突した。被害者は脳挫傷と左大腿骨腓骨骨折の重症を負い、植物状態となり、約二年後に症状固定と診断され後遺障害等級1級3号と認定された。誰が誰に対して、どのような根拠で損害賠償を請求できるか。

    参考:両親との関係について
    甲の両親は夜間の仕事についており、深夜は自宅にいないためわからなかった。
    乙の両親は、父親が夜間の仕事についており、母は自宅にいたが、田舎のため家に鍵をかける習慣がなく、わからなかった。

    論点① 甲と乙は未成年者であるから、712条の「責任能力」の無い者とし
        て免責されるか?
        → 中学2年生であれば、無免許運転が事故を発生させる危険がある
          ことを認識できた。責任能力がある。712条は該当せず、通常
          の不法行為(709条)が該当する。
    論点② 甲乙に712条が適用されないと、甲乙の両親に714条が適用でき
        ず、両親に対する責任は追求できないのではないか?
        → 714条が適用できないからと言って、709条も適用できない
          わけではない。714条の趣旨は、過失の立証責任の転換であっ
          て、監督義務違反の「監督」は日常一般的な監督を怠ったことで
          たりる。日常的な監督を怠らなかったことを証明することは、ほ
          とんどできない。
          709条の適用なら、通常の不法行為として、監督義務違反の「監
          督」は事故との関係における「監督」であり、日常一般的な「監
          督」ではない。つまり、監督懈怠のために事故が起こったといえ
          るような関係がなくてはならない。(因果関係)
     *甲・乙に責任があるにも関わらず、なんで両親に賠償責任を負わせるの?
      →中学2年生では資力がないから被害者にお金が払えないから。
    論点③ 両親の監督義務違反と事故との因果関係はどう立証するか?
        → 親は子の行動を知らなかったと主張しているが、知らなかった事
          が当然に免責になるとは言えない。親は子の生活状態を把握し改
          善する義務がある。初めは夜間に出歩くだけであったのが、次第
          に窃盗行為等を繰り返すようになったことは、夜間に子供が外出
          自由な環境を作出し、それに対して何の措置も取らなかったこと
          によって引き起こされた。子が非行行為にはしる原因となった。
          2)中学2年生の義務教育中であり、親と同居し、その看護養育下
          にいたのであるから、両親は子に対して責任無能力者に準ずる影
          響力を持ち得たというべきであり、子は親のコントロール下にあ
          ったといえる。
    論点④ 乙はただの同乗者だから事故の責任はないのではないか?
        → ある。 (*自賠法3条の「他人」は当てはまらない)
          1)甲が無免許であることを知っていながら同乗し
          2)事故を起こす危険があることを認識していたのに制止しなか
           った(過失)
          3)一緒に計画を立てた
          4)警察を発見し「逃げろ」と言った行為は危険な運転を助長し
           誘発するものである。(因果関係)
    *甲と乙の関係性が重視される。
    論点⑤ 塗装会社丙社は責任を問われるのか?
        → 問われる。車の持ち主に責任がなければ自賠責保険が下りないた
          め。(運行供用者については自賠法3条)高額な治療費や慰謝料は
          一般人には払えないため、破産されては被害者が救済されない。
          自賠責保険は被害者の救済が趣旨であり、加入が義務付けられて
          いる。丙に責任があったとしても、自賠責保険から賠償金が払わ
          れるから丙に実損はない。
    *自賠責保険の支払いがなされなければ被害者の救済が難しい
    ため、丙や丁を訴えないという選択肢はない!!


    論点⑥ 運行供用者は丙か丁か?
        → 丙。リース契約は、運行支配と運行利益を借主に帰属させるため。
          リース契約は賃貸借契約であるが、実質金融の正確を持っている
          ため、リース業者がもらうリース料は使用収益の対価ではなく、
          金融の対価である。よって運行供用者となるのはリース業社(丁)
          ではなく実際に使用収益の対価を得ている借主(丙)である。
          *親の車だった場合などは、親が運行供用者となる。

    論点⑦ 運行供用者の過失のせいで事故があったとはいえないのでは?
        (因果関係がないのではないか?)
        → 確かに、鍵を付けたまま夜間路上に車を駐車した行為は、注意義
          務懈怠であり過失となるが、そのことからすぐに事故が起こった
          とはいえない。このとき重要となるのは、時間的な関連性と、場
          所的な関連性である。
          例えば、車が盗難にあって一ヶ月後に事故が起こったのであれば、
          運行供用者の過失と事故との因果関係は否定される。その車両が
          盗難されたことと事故が発生したことの関連性が乏しく、盗難が
          なければ事故がなかったとはいえない。しかし、本件では、盗難
          と事故発生までの間が約一日と接近しており、場所的にも近いこ
          とから、本件車両の盗難がなければ事故が発生しなかったという
          ことができ、客観的に見て一体の出来事といえ、因果関係は肯定
          される。この点について判例の明確なラインはなく、個別の事例
          ごとに、検討されなければならない。
    結論

    原告:被害者(戊)の親族
       後見開始の審判を受け、成年後見人となった者

    被告:①甲(709条)
       ②乙(709条)
        *709条の適用が難しかったら719条でも間違いじゃない。
       ③甲の父・母(709条)
       ④乙の父・母(709条)
       ⑤丙(自賠責法3条)

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