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    ソーシャルワークの価値について
    ソーシャルワークが価値と向き合うとは、どのようなことを意味するのか。それは、ソーシャルワークがクライエントや社会の人々に対して何をするか、何をしたいか、人々の生活上の利益を最大限もたらしたかどうか、を問うことであり、ソーシャルワークの価値を問うことである。人々の生活を利することを公言するソーシャルワークの存在意義は、ソーシャルワークが理念としてあげる価値に内包されている意味への問いとともに、これを援助行為として実現しようとするソーシャルワーカーと援助される側に位置するクライエントの関係に生起する諸価値の明示ないし可視化し、その意味を問うものである。
    日本は戦前、社会福祉の対象者は「経済秩序快適存在」と形容され、戦後においても、長らく正常な生活から脱落、背離する人やその恐れのある人であった。今日いかに「利用者」と名称を変えてみても、社会から規定される存在への形容は「社会的弱者」である。あるいは、J.ロールズ差格原理の主張がなされたとしても、どれだけ市民的合意としての社会的連帯が成立するか、社会福祉にとっては重要な課題である。社会福祉の実践としてのソーシャルワークは、社会変革を標榜してきたが、クライエントに付される「独特の社会関係的地位」について、必ずしも払拭し切れていない課題を残してきている。今述べたことと近似の問題をP.スピッカがすでに「スティグマト社会福祉」について論じたとき、スティグマの問題がむしろ、社会福祉と異なる次元の社会問題であることを実証している。いつの時代にあっても、人々の生活困難はおきる。ソーシャルワーカーの社会的良心が痛むことなく、また、社会的良心を痛めさせられるのではなく、対等な関係と社会との媒介役である続けるためには、政策や制度の有用性の評価とともに、ソーシャルワーカーの実践に着目し、その内容に介在する多様な価値の問題を浮き上がらせることが必要不可欠である。こうした諸価値の分析を持って、初めて、ソーシャルワークの根源的なあり方を問うことを可能にし、これを社会的に発信することが、クライエントに付される「独特の社会関係的地位」の問題を解消し、生活上の不利益をなくして行くことに繋がる。
    ソーシャルワークの特異性や問題性を探るにしても、「あいまい行為」の分析をして可視化するにしても、枠組みが必要である。ソーシャルワークの価値体系という場合、基本的には二つに大別で分かれる。ひとつは、ソーシャルワークの独自の自己展開を促す内発的な価値体系、二つはこれに外部から作用する価値で、外在的な価値体系である。前者は、福祉の理念としての価値である「福祉価値」と、これを実現しようと木のする目的的手段価値で、操作性の高められた「専門職業の価値」とがある。後者は、内発的な価値体系とは相互規定的な関係を持つ外在的な価値体系である。これには、「社会的価値」、「集団的価値」、援助行為の実施者であるソーシャルワーカーやクライエントの持つ「個人的価値」がある。
    ソーシャルワーカーは社会と個人に対する二重の責任とともに、所属機関に対する責任も負う。したがって、社会的価値や集団の勝ち、クライエントや家族などの個人的価値や自らの個人的価値、これらの諸価値と理念的な福祉価値と専門職としての理想的な状態像を示す専門職業の価値との狭間に置かれることになる。こうした状況の中でソーシャルワーカーはクライエントにとって最適な価値の判断をしなければならないが、どのような価値が影響し合い、ソーシャルワーカーがいかなる価値葛藤を経験し、何を選択的に判断し、それがいかなる価値を生み出したのか、それがいかなる意味を持つのかなど、詳細な価値の分析と明示は、すなわち、価値を可視化することは、ソーシャルワークが何を目指すが、固有の支店や独自の価値、より質の高い援助行為の追及だけではなく、その存在の根拠や意義にかかわる点できわめて重要である。
    参考文献:
    1.フレデリック‧G‧リーマー 秋山智久監修 ソーシャルワークの価値と倫理  中央法規出版 2001年 P‧19⁃20
    2.嶋田敬一朗 社会福祉の思想と理論 ミネルブァ書房 1980年 p‧9
    3.平塚良子 「ソーシャルワークにおける価値研究の課題」 聖隷クリストファー看護大学 1994年 pp‧67⁃69
    4.ジョン‧D‧ロールズ 矢島 釣次 監訳正義論 紀伊国屋書店 1979年 pp‧13⁃21
    5.P‧スピッカー 西尾祐吾‧白石大介訳 スティグマと社会福祉 誠信書房 1987年
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