被疑者の取調と自白の任意性

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    資料紹介

    本件は、検察官の偽計を用いた取調べにおいて得られた自白の証拠能力を認めることが、刑訴法319条1項、憲法38条2項に反しないか、争われた事案である。
    第一審は、被告人は、法定の除外事由がないのに、妻貞子と共謀し、拳銃及び拳銃実包を隠匿所持していたことを、罪となるべき事実と認定し、実際には、拳銃及び実包を購入・所持していたのは妻貞子であったことから、被告人は共同正犯の責任があると認定された。
    しかしながら、一審で認められた共謀を認定するために用いられた証拠は、警部補福島信義により作成された供述調書(共謀について自白)のみであったところ、一審の公判廷において、貞子は自己の単独犯行であると証言し、被告人は共謀を否認したので、右供述調書が問題となり、貞子及び検察官増田光雄の証言により、被告人及び貞子を取調べる際、増田検察官は、嘘を用いて両人から共謀の事実を認める供述を獲得し(いわゆる「切り違え尋問」)、それから福島警部補に被告人を取調べ直すように指示し、結果作成されたのが右供述調書であることが明らかになった。
    弁護人はこのような偽計を用いる取調べ方法は違法であり、その結果得られた被告人の自白は任意性にかけると主張。しかし、第二審は、「偽計を用いた尋問方法は決して望ましいものではない」としつつも、事案の真相を解明するため、また、虚偽の自白を誘発する蓋然性は少ないことから、「単に偽計を用いたという理由のみでこれを違法とすることはできない」とし、自白の任意性を認めた。
    これに対し最高裁は、「捜査手続といえども、憲法の保障下にある刑事手続の一環である以上、刑訴法一条所定の精神に則り、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ適正に行なわれるべきものであることにかんがみれば、捜査官が被疑者を取り調べるにあたり偽計を用いて被疑者を錯誤に陥れ自白を獲得するような尋問方法を厳に避けるべきであることはいうまでもないところであるが、

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    被疑者の取調と自白の任意性
    最大判昭和45年11月25日 刑集24巻12号1670頁
    groundnut
    (1)事実の概要
    本件は、検察官の偽計を用いた取調べにおいて得られた自白の証拠能力を認めることが、刑訴法319条1項、憲法38条2項に反しないか、争われた事案である。
    第一審は、被告人は、法定の除外事由がないのに、妻貞子と共謀し、拳銃及び拳銃実包を隠匿所持していたことを、罪となるべき事実と認定し、実際には、拳銃及び実包を購入・所持していたのは妻貞子であったことから、被告人は共同正犯の責任があると認定された。
    しかしながら、一審で認められた共謀を認定するために用いられた証拠は、警部補福島信義により作成された供述調書(共謀について自白)のみであったところ、一審の公判廷において、貞子は自己の単独犯行であると証言し、被告人は共謀を否認したので、右供述調書が問題となり、貞子及び検察官増田光雄の証言により、被告人及び貞子を取調べる際、増田検察官は、嘘を用いて両人から共謀の事実を認める供述を獲得し(いわゆる「切り違え尋問」)、それから福島警部補に被告人を取調べ直すように指示し、結果作成されたのが...

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