EUの考察と日本

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    資料紹介

    『統合と分裂のヨーロッパ』が出版されたのは13年前の1993年で、マーストリヒト条約が発効し、市場の統合が完成した年である。つまり、ヨーロッパが大きな一歩を踏みだした時期なのだが、著者は的確な分析を行い、ヨーロッパ世界を展望し、現在の状況を鋭く予見している。たとえば、各国家がECによる統合によって主権の一部を喪失し、これまで国家を標的としてきた運動が次第にその有効性を失ってゆくため、減少してゆくだろう、という指摘には、2005年にIRAが武装闘争の終結を宣言したことが当てはまるだろう。また、各国内での地域主義運動が、とりわけ自らの経済的周辺化を問題にするとき、近い将来にポーランド、チェコ、ハンガリーといった東欧諸国がECに加盟・準加盟するような場合には、その運動の正当性を失ってゆく、という推察は現在加盟国が25カ国となったEUの大きな課題が、西欧諸国と東欧諸国の経済格差是正であるということを考えれば、まさにその通りといえる。
    著者は、西欧の変化は「国民国家モデル」、つまりアイデンティティが国民国家におかれている状態から、「三空間並存モデル」、つまりEC・国家・地域のそれぞれについてのアイデンティティを同時に持っている状態への移行という形に要約できると分析している。

    資料の原本内容

    EUの考察と日本
    参考書籍:統合と分裂のヨーロッパ
    『統合と分裂のヨーロッパ』が出版されたのは13年前の1993年で、マーストリヒト条約が発効し、市場の統合が完成した年である。つまり、ヨーロッパが大きな一歩を踏みだした時期なのだが、著者は的確な分析を行い、ヨーロッパ世界を展望し、現在の状況を鋭く予見している。たとえば、各国家がECによる統合によって主権の一部を喪失し、これまで国家を標的としてきた運動が次第にその有効性を失ってゆくため、減少してゆくだろう、という指摘には、2005年にIRAが武装闘争の終結を宣言したことが当てはまるだろう。また、各国内での地域主義運動が、とりわけ自らの経済的周辺化を問題にするとき、近い将来にポーランド、チェコ、ハンガリーといった東欧諸国がECに加盟・準加盟するような場合には、その運動の正当性を失ってゆく、という推察は現在加盟国が25カ国となったEUの大きな課題が、西欧諸国と東欧諸国の経済格差是正であるということを考えれば、まさにその通りといえる。
     著者は、西欧の変化は「国民国家モデル」、つまりアイデンティティが国民国家におかれている状態から、「三空間並存モデル」、つまりEC・国家・地域のそれぞれについてのアイデンティティを同時に持っている状態への移行という形に要約できると分析している。私はこのような見方を初めて知ったのだが、非常に面白いと思った。私たちが普段、国際関係について考えを起こすときは、得てして国民国家を基本単位としているということに気づいた。このような多重的な考え方をすることはとても重要なことだと思われる。しかし、1993年当時はこのような見方も可能であったろうが、現在の状況は若干異なっているだろう。つまり、現在で3つのアイデンティティの並存が困難となっているのである。
     EUは着々と拡大を続けている。1995年には3カ国、2005年には10カ国もが加盟し、ブルガリアなどの国々も加盟が予定されている上、アジアの国といっても良いようなトルコまでも加盟を申請している。EUは拡大すればするほど、必然的に西欧の文化とは異なった存在を取り込むことになるのだ。したがってそれに対する反発が大きなものとなってくるのである。イギリス、スウェーデン、デンマークのEUROへの不参加や、EU憲法への各国の反対などはその例だ。したがって筆者の述べている「三空間並存モデル」は、その形を崩し、また国民国家単位への逆行が進んでいるといえる。
     この著書の中で、私がとりわけ感心したのはベルギーがいかに国際的な国家かということである。ベルギーは4つの地域からなる連邦制国家で、フランス語、オランダ語、ドイツ語が公用語となっており、国内の人々はほとんどそれらを話せるそうで、また英語はもちろんのことイタリア語なども通じるそうである。さらに国内を、ヨーロッパを貫く国際高速道路が通っており、国内に行き来する人、また定住する人が非常に多く外国人とベルギー人を区別するのは容易ではないという。このようにヨーロッパの人々が行きかい、EUの本部のあるベルギーはまさにEUの縮図のようなものなのであろう。
     わたしは本音をいうと、この日々外国との交渉があるベルギーのような国が非常にすばらしいと思った。日本は、限りなく単一民族国家に近い国である。日本においても国際語である、英語教育は重点的になされているが、実際に使いこなせる人は少ないし、使わなくても生活は出来てしまうのである。これは日本が、海に隔たれた島国であるという地理的な原因も大きいだろう。ヨーロッパのように何百年もの間に国境がめまぐるしく変わることがなく、他国との交渉は困難だったのだ。従って民族的にはほぼ単一なものとなっているのである。しかし日本の政策もこれの原因となっているだろう。日本は外国人の単純労働の就労は認めていないし、難民の受け入れもほとんどしていない。日本自ら外国を締め出しているわけである。
    現在、世界は地域的な統合が進む傾向にある。EUを筆頭にASEANやAU、MERCOSURなど、経済、政治的統合組織が次々に生まれてきて、その結合が強くなってきている。日本は戦後50年間で経済的に非常に大きな成功を収めた。だが少子化にある現在、今の経済規模を維持してゆくこともおぼつかないのかもしれない。日本は、文化的にも経済的にもアジア諸国とのつながりが強い。行き詰まった状態を打破するため、また他地域との政治的、経済的対等性を保持するためにも、アジア諸国と協力をしてゆくことが必要なのではないだろうか。なにもEUのように一つの国家を目指した連合を目指そうといっているのではない。だが、われわれがそこから学ぶべきことも多いのではないかと考えるのである。

    コメント1件

    nikoniko 購入
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    2007/01/25 13:48 (17年3ヶ月前)

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