団塊世代の退職とその影響

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    資料の原本内容

    ●図表 1 企業規模別にみた団塊世代比率
    (注)1.産業別労働者のデータは5歳刻みでしかないため、団塊世代の構成比が
        全産業で同じとして算出。   2.企業規模区分は雇用者数ベース。(資料)総務省「国勢調査」(2000年)、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2000年)(%)0
    6
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    8
    9
    10
    11
    非製造業 製造業
    大企業
    中小企業
    中堅企業
    職者一人当たりの求人数を示す有効求人倍率は、昨
    年12月に1.03倍と1992年8月以来の1倍台を回復し
    た。また、企業の追加的な労働需要を示す新規求人
    数は、既にバブル期を上回り過去最高の水準で推移
    している。
    こうした雇用環境改善の背景には、景気回復による
    人手不足感の強まりに加えて、2007年から本格化する
    「団塊世代の大量退職」(2007年問題)への対応という
    企業側の事情がある。とりわけ雇用者に占める団塊世
    代の比率が高い中小製造業では、労働力の確保とい
    、生産現場における技能継承という点
    で2007年問題への対応が急務となっている(図表1)。
    このような状況のもと、4月から高年齢者の雇用を確
    保する措置(①65歳までの定年延長、②定年廃止、③
    65歳までの継続雇用制度のいずれか)を実施すること
    10
    みずほリサーチ May 2006
    が企業に義務付けられた(以下、同措置を「雇用確保
    制度」と呼ぶ)。雇用確保制度は、年金の支給開始年
    齢引き上げにともなう無収入の期間を埋めるのが本来
    の目的だが、労働力不足への懸念が強まる中、労働供
    給を確保する有力な手段として 注目されている。
    本稿は、雇用確保制度導入の効果を踏まえた上で、
    団塊世代の退職が労働市場に与える影響を検討する
    ものである。
    ミスマッチによって需給が逼迫しやすい労働市場
    団塊世代の影響を検討するにあたっては、雇用確保
    状況を考慮する必要がある。ミスマッチの程度いかん
    によって、供給ショック(今回の場合は団塊世代の退職)
    の市場に与える影響が異なるからだ。
    労働市場におけるミスマッチの状況は、雇用失業率
    (U)と企業の欠員率(V)の関係を示したUV曲線で確
    認することができる。需給のミスマッチが拡大する局面
    では、欠員率が上昇(企業の労働需要が拡大)しても
    失業率の低下に結びつきにくいため、
    方にシフトする。実際、日本の労働市場についてみる
    と、94年から2001年にかけてUV曲線は右上方にシフ
    トしており、この間にミスマッチが拡大したことを示して
    いる(図表2)。
    これに対して2002年以降の景気回復局面では、失
    業率が緩やかに低下する一方で、ミスマッチの縮小を
    示すUV曲線の左下方シフトはみられなかった。これ
    は、90年代半ば以降に拡大したミスマッチが、現在も
    雇 用
    団塊世代の退職とその影響
    ―団塊世代の就業動向次第では労働需給が逼迫する可能性も―
    労働需要の拡大が見込まれる中、2007年から本格化する団塊世代退職の影響が懸念
    されている。わが国の労働市場はミスマッチを抱え、こうした供給ショックに対して需
    給が逼迫しやすい構造となっている。高齢者雇用確保策の導入効果を期待する見方も
    あるが、制度の実効性に懸念があり、過大な期待は禁物だ。
    みずほリサーチ May 2006 11
    解消されずに残っていることを意味する。
    こうしたミスマッチの深刻さを測る指標として均衡失
    業率がある。均衡失業率とは、需要と供給が均衡して
    いるときの、すなわち、需要不足による失業がなくなっ
    た場合の失業率である。ミスマッチが拡大すれば均衡
    失業率は上昇し、縮小すれば低下する。最近の雇用
    失業率と欠員率の関係から、現在の均衡失業率を推
    計すると約3.9%となる。4.1%まで改善した現実の失
    業率との差は0.2%ポイント程度まで縮まっており、こう
    した均衡失業率の高さ(ミスマッチの深刻さ)が足元の
    人手不足感を強める原因の一つとなっている。
    では、均衡失業率は今後どのように推移するだろう
    か。この点は団塊世代の退職が本格化する2007年の
    労働市場を考える上で、極めて重要なポイントとなる。
    均衡失業率の先行きについては、堅調な労働需要
    を背景に職探しにともなう摩擦的失業が減少すること
    などから、低下を見込む。しかし、4年に及ぶ景気回復
    にもかかわらず、ミスマッチが 縮 小しなかった 事 実 に 鑑
    みると、2007年になって均衡失業率の水準が大きく低
    下するとも考えにくい。我々の見通しでは、0.3%程度
    の低下幅(均衡失業率の水準は3.6%)にとどまるとみ
    ている。以下では、この前提のもと、団塊世代退職の
    影響を労働需給の逼迫という観点から検討している。
    雇用確保制度の効果は限定的
    次に雇用確保制度の効果についてみることにしよ
    う。先述の通り、4月に導入された雇用確保制度は、
    今後さらなる人手不足の深刻化が見込まれる中、労働
    力確保の有力な手段として注目されている。実際、当
    社が実施したアンケート調査(従業員50人以上企業の
    787社回答)によると、雇用確保制度の導入を検討して
    いる企業の約9割が「高年齢者の知識・経験の活用」
    を導入理由としてあげており、同制度に対する企業の
    期待がうかがえる。
    しかし、企業の期待とは裏腹に、雇用確保制度が人
    手不足の解決策となりうるか は 不 透 明 だ。そ の 理 由と
    して、団塊世代においても企業が求める人材と継続雇
    用を希望する雇用者の間で職種のミスマッチが存在す
    ることがあげられる。実際、企業の職業別過不足判断
    DIと団塊世代の職業別労働者割合を重ねあわせて
    みると、両者のギャップがよくわかる(図表3)。団塊世
    代では、企業ニーズの高い「専門・技術」の割合が低
    く、一方で最も割合が高い「管理」に対する企業の需
    要は乏しい。
    ●図表 2 UV曲線の推移
    (注)雇用失業率=完全失業者数/(完全失業者数+雇用者数)×100
       欠員率=(有効求人数-就職件数)/((有効求人数-就職件数)+雇用者数)×100
       ※通常の失業率計算に含まれる自営業等は、企業の労働需要とは関係なく失業に
       なると考えられる。したがってUV 分析では自営業等を除いた雇用失業率を用いる。(資料)総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」雇







    欠員率(%)1.0 3.0 5.0 7.0
    1.0
    2.0
    3.0
    4.0
    5.0
    6.0
    7.0
    02年
    05年
    94年
    90年
    需要不足 ミスマッチ
    拡大
    ミスマッチ
    縮小 供給不足
    ●図表 3 職業別労働者の過不足判断と団塊世代比率
    (注)1.「生産工程・労務」の過不足判断DIは技能工および単純工に対するDIの平均値。   2.団塊比率は、それぞれ2000年の雇用者に占める51~53歳の比率。(資料)厚生労働省「労働経済動向調査」(2006年2月調査)、    総務省「国勢調査」(2000年)0
    5
    10
    15
    20
    25
    30
    35
    40
    過不足判断DI
    (左目盛)
    0
    7
    8
    9
    10
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    12
    13
    14
    団塊比率
    (右目盛)
    団塊世代比率
    が高い職業

    計専













    ス運











    (ポイント)( % )
    12 みずほリサーチ May 2006
    また、高年齢者の雇用確保を義務付けているもの
    の、罰則規定がなく、継続雇用制度では企業が対象
    者を限定できる仕組みとなるなど、制度自体の実効性
    に疑問符がつく内容であることも、制度の効果を見極
    めにくい理由の一つである。
    さらに、雇用継続制度では、それまで働いていた企
    業での継続的な雇用を原則としているため、企業間移
    動でミスマッチが解消できるようなケースには対応でき
    ないという限界もある。
    これらの状況を見る限り、実際の制度実施にともな
    って団塊世代の労働力がどの程度確保されるのかは
    一定の幅をもってみる必要があろう。
    団塊世代の就業動向次第では需給逼迫の可能性も
    最後に、団塊世代退職の影響について考えることに
    したい。はじめに、雇用確保制度を導入しなかった場
    合の労働市場についてみてみよう。
    まず、労働需要については2007年度にかけて潜在
    成長率を上回る景気拡大が見込まれることから、今後
    2年間で120万人程度増加すると予想される。これに対
    して労働供給は、需要増による労働力率の上昇(職探
    しを諦めて非労働力化していた層の再参入など)を織
    り込むものの、団塊世代の退職が本格化することから、
    2007年度までに約20万人程度減少する。その結果、
    失業率は3.3%と、3.6%程度とみられる均衡失業率を
    下回り、労働力不足が深刻化する。このように需要が
    供給を上回る状況では、賃金上昇圧力が強まり、その
    結果企業収益を圧迫することにもなりかねない。
    では、高年齢者の雇用確保制度が導入されることで、
    労働力不足がどの程度緩和されるのだろうか。通常、
    60歳代を迎えた雇用者の約4割が非雇用化するが、ここ
    では制度導入によって、非雇用化する雇用者のうち①3
    分の1が継続雇用されるケース、②2分の1が継続雇用
    されるケース、③全員が継続雇用されるケースの三つを
    想定し、2007年度における失業率を試算した(図表4)。
    それによると、団塊世代の退職による労働供給の減
    少が緩和されるため、失業率はそれぞれ①3.7%、②
    3.9%、③4.5%と雇用確保制度を導入しないケースに
    比べて上昇する。最も保守的なケース①でも均衡失業
    率...

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