第99回薬剤師国家試験338問 解説

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    『濃度計算』の盲点

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    第 99 回薬剤師国家試験 問題 338

    27 歳男性。体重 60kg。7 月中旬に開催されたマラソン大会に参加中、意識が朦朧となり、
    救急搬送された。緊急検査の結果、心電図に異常はなかった。血清ナトリウム値は
    110mEq/L、血清カリウム値は 4.0mEq/L であった。
    低ナトリウム血症治療のために 3%塩化ナトリウム液の調製依頼があったので、生理食塩
    液 500mL に 10%塩化ナトリウム注射液を加えて調製した。10%塩化ナトリウム注射液の
    添加量として最も近い値(mL)はどれか。1 つ選べ。
    1 50

    2

    80

    3 100

    4 120

    5 150

    マラソンに参加した男性が、汗かなんかで大量に Na+を失い、補給したいと
    いう場面だ。血清ナトリウム値の正常範囲は 135~149mEq/L だから、かなり
    減少しているね、ちょっとやばそうだ。
    1.

    0.5h
    2. 1h
    3. 2h
    4. 3h
    5. 4h
    悠長に生理食塩水だけで補給しても間に合わない・・・だから少し濃い目の
    補給液・すなわち 3%塩化ナトリウム液が欲しい。
    初めから 3%塩化ナトリウム液が病院においてあればいいんだけど、実際に病
    院においてあるのはこの 10%塩化ナトリウム注射液(アンプル)だ。

    細かい濃度の設定は、これを生理食塩水に混ぜて調製
    しているんだ。
    初めから 3%を置いとけよって思う人もいると思うけ
    れど、それをやりだすと 1%刻みですべての濃度を揃え
    ておかなければならないし、在庫や場所を取り過ぎて現
    実的ではないからね。現場で働く薬剤師にとっては重要
    かつ頭の痛い問題だろう。

    さて、解答に進む前にこの問題で出てくる濃度の表記や生理食塩水について
    知っておく必要がある。
    生理食塩水と言えば体液と等張の液だったが、食塩の具体的な濃度はいくら
    だっけ?これはもう常識だけど、0.9w/v%NaCl 液だったよね。

    1

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 338

    生理食塩水
    生理食塩水とは 0.9w/v%濃度の食塩水である
    生理食塩水=

    0.9g
    100mL

    100mL
    を思い出し、左の図が書けるようにすること!

    0.9g
    濃度というのは具体化しにくい情報だから、上の図のように『100mL の水に
    0.9g の食塩が溶けている』という図をすぐに書けるようにしておこう!

    さて、今この生理食塩液が 500mL あって、その中に溶けている NaCl は

    0.9g

     500mL=4.5g

    だから、

    100mL

    0.9%

    左図のようになるね
    500mL

    4.5 g
    ここに濃ゆーい 10%NaCl 液を添加して、
    3%NaCl 液にしたいんだね。

    3.0%

    2

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 338

    さて、10%NaCl 液は何 mL 添加すればよいのだろう?
    まず、この問題で典型的な誤答を見てみよう。
    【誤答】
    今、生理食塩液(0.9w/v%)の中には 4.5g の NaCl が溶けこんでおり、
    これが 3%NaCl 液になるには、 3% 

    3g



    100mL

    15g

    より、

    500mL

    あと 15g-4.5g=10.5g の NaCl を
    入れればよいことになる。

    0.9%

    500mL
    10%NaCl 注射液を x mL 添加したとす
    ると、

    4.5 g

    10g

     x mL=10.5g を解いて

    100mL

    x =105mL

    10%NaCl 液を 105mL 注げば、
    食塩を 10.5g 添加したことにな
    ると分かった

    3.0%

    500mL

    よって、添加すべき 10%NaCl 液は 105mL

    15 g

    さて、この解答はなにが間違っているんだろう?間違いポイントは、10%
    NaCl 注射液を注いだあとの図だ。
    そもそも x mL 添加したんなら、溶液の総量は(500+ x )mL のはずだよね。
    500mL よりも多いはずだ。だったら食塩が 15g だと塩味が薄くなっちゃう(3%
    よりも濃度が低くなっちゃう)。食塩の量だって 15g では足らないはずだ。
    3

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 338

    つまり、誤答では 3%NaCl 液を作るための食塩の g しか考えておらず、継ぎ
    足した 10%NaCl 注射液の mL 分、溶液の量が増えるのを無視しているんだよ。
    結局、食塩だけじゃなく、食塩 g と溶液 mL が同時に変化するからややこし
    い。別々にきちんと分けて考えれば簡単だよ。

    【正答】
    今、生理食塩液(0.9w/v%)の中には 4.5g の NaCl が溶けこんでいる。
    ここに、10%NaCl 注射液を x mL 添加したとすると、
    添加した食塩は

    10g
    100mL

    x

     xmL 

    g

    となるので、添加後は下図のようになる。

    10
    図より、溶媒は(500+ x )mL
    溶質は 
     4.5 
    500mL

    0.9%



    x

    g とわかる。

    10 

    この新しい溶液の濃度が 3%であれば良い
    ので、以下の式が成り立つ。
    4.5 g

    x

    x

     4.5   g
    3g
    10 


    500  x mL 100mL

    g

    10

    x mL
    3.0%

    500mL

    これを x について解くと、 x =150
    よって、10%NaCl 注射液を 150mL 添加す
    ればよい。(正解は選択肢 5)

    4.5 g

    4

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 338

    今回の問題は、濃度のトリックとでも言うべき内容だったね。
    実際の調剤の現場がイメージできれば、『液体を添加したのに総量mL が増え
    ない』なんていう奇妙な引っかかり方をすることはないんだけど、自分の目で
    調剤現場を見る前の現段階ではなかなか難しいよね。
    こういうのは紙の上の勉強だけでは盲点が生まれやすいので注意しよう。

    また、濃度の問題では、溶媒と溶質の変化を別々に考えるというのが非常に
    重要だ。
    『同時に 2 つのものが変化する』というのは非常に難しく、だからこそ
    1 つ 1 つ分離して考えるようにしようね。
    //

    作成日

    2014 年 11 月 27 日

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