金星の溶岩が刻んだ6800kmの溝地形

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    金星の溶岩が刻んだ6800kmの溝地形
    金星の地質年代と大規模一斉更新説
     クレーター分布から見積もられた金星の地表年代はおよそ3億~5億年であり、ほかの地球型惑星より新しい。地球の地表年代は0~40億年と幅広いが、プレートテクトニクス(プレートの水平移動)によって常にリサイクルされている海洋地殻の年代は2億年以内である。しかし金星には、プレートテクトニクスによって形成される特徴的な地形(海嶺、海溝など)は見られない。マゼラン探査機のデータは、金星と地球では惑星進化の過程が大きく異なることを示している。  金星のほとんどの地表面の年代が3億~5億年より若いことは、「大規模一斉更新説」によって説明される。およそ3億~5億年前にグローバルな火成活動、構造運動が起こり、地表が更新されたという説で、その要因には最大約70kmという金星の厚い1枚板のリソスフェア(硬いプレート)が密接に関連していると思われる。安定した厚いリソスフェアが惑星内部の温度を上昇させる、あるいはリソスフェアが定常的に沈み込まないために厚くなり続けてあるとき、一挙にマントル(プレート以深の岩盤)中に沈み込むことで、激しいマントル対流を生むのではないかと考えられている。
    太陽系最大のチャネル地形バルティス・バリス
     金星にはコロナやテッセラなど特有の地形も存在するが(第8回記事参照)、月やほかの地球型惑星に共通する火成地形、構造地形も数多く存在する。その一つがチャネル地形である。地球では河川のほか、溶岩の流れた跡である溶岩チャネルも見られ、その多くは溶岩堤防が発達している。これに対し、月の蛇行リルと呼ばれる溶岩チャネルは堤防を伴わず、熱侵食起源であるとされている。火星は地球以外で唯一河川地形が見つかっている惑星である。アウトフローチャネルと呼ばれる地形は全長1000km以上、幅数十~数百kmにも及ぶ河川系であり、地下に貯蔵されていた水の巨大洪水によって形成されたと考えられている(図1)。
    図1 火星のアウトフローチャネル
     金星では、マゼラン探査機のレーダー画像から200以上のチャネルが確認されており、その一つに全長約6800km(ナイル川より100km長い)という太陽系最長のチャネル、バルティス・バリスと呼ばれる谷がある(図2)。バルティス・バリスをはじめとする“河川タイプ”のチャネルは、層序学的な観点から大規模一斉更新の終息期に形成されたと考えられており、その分布の特徴も大規模一斉更新との強い関連性を示している。また、河川タイプのチャネルは、所々で蛇行や三日月湖など、地球河川に大変よく似た構造が見つかる。しかし、金星の表面では液体の水は安定に存在できない。果たしてバルティス・バリスは、金星の地表環境下で水のように振る舞うことのできる、特殊な溶岩によって形成されたのだろうか?
    図2 バルティス・バリス(50°N, 167°E付近)
     我々は、マゼラン探査機の画像データからバルティス・バリスの横断面の微地形を復元した(図3)。その地形的な特徴から、バルティス・バリスが地球の一般的な溶岩チャネルとは異なり、河川と同様のメカニズム(地表面の力学的な侵食)によって形成されたことが明らかとなった。
    図3 バルティス・バリスの地形復元図(51°N, 166°E付近)
     現在我々は、太陽系最長のチャネル、バルティス・バリスのより詳細な微地形解析を進めている。この研究を通して、金星の大規模一斉更新をもたらした火成活動、さらには惑星進化をひもとく重要な情報が得られることを期待している。
    (ISASニュース 2004年9月 No.282掲載)
    資料提供先→  http://www.isas.jaxa.jp/j/column/inner_planet/12.shtml

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