日本人の神観について

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    「日本」の語が用いられた現存最古の文献は『日本書紀』である。勅命によって編纂されたこの歴史書は、民族の原初の意識をよく記録している。また、ほぼ同時期にやはり勅命によって編纂された歴史書には、『古事記』があるが、これらの歴史書が編纂される以前から、それぞれの部族が保存してきた、それぞれの部族の出自にかかわる神話は現存しておらず、私たちの手元にはこれらの史料しかない。(中略)すべての民族は自らの由来に関わる神話を持っている。より正確には、神話を共有することによってのみ民族は成立しうる。神話とは、非現実的なものであるにもかかわらず、一つの民族の構成員一人一人に共有されたものである。そのようなことが可能であるのは、ある神話が、ある人間集団に共有されている現実感覚を濾過して人称化・神格化しえたものである限りにおいてである(神話間に相似が見られることがあるのは、幾重にも濾過される過程で、時間・空間を超えて、民族ではなく人類としての意識にまで感覚が純化された結果である、と表現しうる)。(中略)ここで、『記紀』神話に描かれる生活に焦点を当てて指摘すべきは、狩猟採集経済については一切記録せず、農耕開始以後の記憶のみがとどめられていることである。(中略)同時期の和歌集である『万葉集』には、「大君は神にしませば」で始まる歌が散見される。この過程は内政において、天皇が『記紀』の成立によって環節社会の盟主であったところから、階層社会の頂点に位置付けられたことに対応している。天皇は世を統べる神となり、ここに、人の世と神の世界は一つのものとなるのである。(中略)しかし、これに伴い、日本人の神観は漸次変容したのではなかった。応仁の乱から江戸前期にかけて、決定的な変化が起こり、その後の日本人はそれ以前とは違った倫理観に支えられ、違った価値概念に従い、違った生活をはじめたことが、歴史学によって指摘されている。(中略)農耕に基づく従来の経済が、幕府自らが鋳造した貨幣の浸透によって崩壊し、そのため、封建制・農本主義をとる幕府の支配力すらも低下することとなったのである。(中略)真実には、近代国家という大がかりな意思決定のシステムこそが、前近代的な社会にあってはこの世のものならぬ概念であったがゆえに、(輸入された貨幣のように)聖なるものとして感覚させられえたのであって、天皇はその枠内の一つの機関であるに過ぎない。それをこの世のものならぬはずの神であるとするならば、国家は意思決定のシステムとして正常に機能せず、そこには盲目的な狂信しか生まれない。かくして、天皇から下賜された武器をもって戦った大日本帝国陸海軍は、敵軍をいぶかしがらせるような自滅的な戦いを繰り広げ、大敗するのである。(以下略)

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    日本人の神観について
    「日本」の語が用いられた現存最古の文献は『日本書紀』である。勅命によって編纂されたこの歴史書は、民族の原初の意識をよく記録している。また、ほぼ同時期にやはり勅命によって編纂された歴史書には、『古事記』があるが、これらの歴史書が編纂される以前から、それぞれの部族が保存してきた、それぞれの部族の出自にかかわる神話は現存しておらず、私たちの手元にはこれらの史料しかない。もちろん、勅命によって編纂された歴史書であるゆえに、それは、その当時に存在していた幾つもの伝承や記録が統治権力の意向に沿って編集された文書であろうことは、同時期に達成された、国家主導による、部族横並びの環節社会から天皇を中心とした階層社会への移行を見ずとも想像に難くない。しかし、与えられたテーマに沿って考えるときに、これらから取り出すべき日本人の原初の神観は、むしろ編纂者たちが手を入れなかった部分にこそ、染み込んでいると見なしうるのではないか。

     すべての民族は自らの由来に関わる神話を持っている。より正確には、神話を共有することによってのみ民族は成立しうる。神話とは、非現実的なものであるにもかかわらず、...

    コメント1件

    marufuku 非購入
    さまざまな学問の成果をふんだんに取り入れて、それらでもって検証しつつ丁寧に論を展開しているところが見事だと思いました。
    2009/03/16 15:19 (15年前)

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