行政法レポート

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    行政法レポート
                         
    ニュース記事 2009/05/02, 日経プラスワン
    庭先でたき火、近所から苦情が――Q自宅だから自由では(弁護士さん相談です)
     東京都郊外に住む六十代の夫婦。自宅の庭先でたき火をしながら、いらなくなった本や衣服を燃やしていたら、隣の家の住人が苦情を言ってきた。
    たき火をすること自体は、特に法律で規制されていない。事前に行政などに届け出る必要もない。ただ、二〇〇一年四月に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」が改正施行され、廃棄物の焼却は一部の例外を除いて禁止された。ダイオキシンなど有毒物質の発生が問題視されたことが背景にあった。
    多くの自治体はホームページなどで、「自宅でのごみ焼きはやめましょう」と呼びかけている。廃棄物処理法の目的に照らして問題があれば、都道府県知事や市町村長による行政処分や行政指導の対象になり得る。個人への適用は想定しにくいものの、悪質業者が廃棄物の焼却を繰り返している場合などは、五年以下の懲役か一千万円以下の罰金が科されることもある。 かつては学校の焼却炉でごみを焼いていたという記憶のある読者も多いだろうが、教育の現場でも廃棄物の焼却を取りやめる動きは同様だ。文部省(現文部科学省)は一九九七年、ダイオキシンなどの排出を食い止めようと、全国の学校に焼却炉の利用をやめるよう通達を出した。 しかし、風俗慣習や宗教上の行事、農林漁業のために必要な場合は例外として許される。難しいのは例外規定の中に「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なもの」という表現が盛り込まれていることだ。
    弁護士は他人に損害を与えた場合は民法七〇九条の損害賠償責任により、損害賠償責任を負うと述べた。たき火が「軽微なもの」で廃棄物処理法に違反していなくても、他者に被害を与えれば、損害賠償を要求される恐れがある。隣の家の住人が洗濯物に炭が付いたり、煙によって健康を害されたりしたと訴えれば、損害賠償にまで発展する可能性もある。
    解釈論上の論点 ①庭先の焚き火行為は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」第十六条二の「焼却禁止」にあたるか。行政処分や行政指導は庭先で焚き火行為に及ぶのか。
    ②自治体はホームページなどで、「自宅でのごみ焼きはやめましょう」の呼びかけは行政指導にあたるか
     立法論上の論点
    ③個人の焚き火等によって損害を被った場合は、損害賠償等の民事訴訟しか出来ないのか。
    なぜ行政立法の規制対象は主に業者と想定しているのか。
    もし仮に違法な廃棄物焼却行為の場合は、差止請求もしくは損害賠償といった民事裁判以外、国民から積極的に行政指導や行政処分といった行政の作為を要請できないだろうか。
    解釈と見解
    ①先ず庭先の焚き火行為は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」第十六条二の「焼却禁止」に該当するや否やは問題となっている。同条項の三「公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの」は「焼却禁止」に当たらないとされている。庭先で軽微である廃棄物の焼却は行政処分は及ばないと解すべきである。
    「法律による行政の原理」の観点から国民の自由・権利を権力的に制限なし侵害するような行政活動は当然法律の根拠が必要である(侵害留保説)。廃棄物を焼却する行為は元々個人の自由である。しかし、廃棄物を焼却することによって放出されたダイオキシンは環境汚染等で公共福祉を害する恐れがあることから、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の中で、廃棄物の焼却に規制をした。その立法主旨は恐らく大量の廃棄物を焼却する業者を想定し規制をかけたのであろう。個人の軽微な物の焼却は違法とされず、また風俗習慣、宗教行事、農林漁業のために必要な場合も認められる。
    そこで「法律による行政の原理」の行政法分野においては慣習法の成立する余地がある(藤田 55頁)。既存する法規に違反しない慣習は認める例がある。例えば、河川法に基づいての慣行水利権は許可されて初めて利用できるが、昔から利用権を有する者の利用は妨げられない。思うに「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」において、風俗習慣、宗教行事、農林漁業にかかわる焚き火の慣習は当然行政立法上において尊重される余地がある。
    行政指導は庭先で焚き火をした個人に及ぶかの問題は「法律による行政の原理」から、争いがある。現在の行政実務上の「侵害留保説」に対す「全部留保説」すべての行政活動は法律の根拠が必要とする。この説への批判として、現代複雑した現代の行政需要に対応できなくなる。犯罪事件や死傷事故に至るまでに、行政が機能しない等の指摘がある。行政指導は非権力的な事実行為にすぎない。国民の権利・自由を実質的に制限する規制ではない。法律の根拠を要しないとするのが判例・通説の立場である。更に「行政庁が社会的危険の排除など正当な目的実現のために私人に対しその意思で任意放棄できる法益の制限を非権力的な手段で求めても直ちに法の趣旨公序に反するとは認めがたい」(原田 行政法要論87頁)。従って、個人の焚き火行為が違法や危険性のある場合など、行政庁は必要を認めた時に、法律条文の根拠規定がなくても行政指導ができる。
    ②自治体はホームページなどで、「自宅でのごみ焼きはやめましょう」の呼びかけは行政指導に当たらない。行政手続法第二条の六、行政指導の定義―「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。」ただ自治体のホームページでの呼びかけは、呼びかけの対象は「特定の者」の定義要件に満たさないと解すべきである。別の例として環境局のホームページで産業廃棄物処理業者の条例違反が公表されることである。呼びかけや公表等、行政側がした行為は元々法的効果がなく、行政行為に当たらない。呼びかけはただ行政側が掲げるスローガンに過ぎないが条例違反の業者を公表することは、業者側に損害を被った恐れがあるから、国家賠償のみ可能とされる。
    従って、「自宅でのごみ焼きはやめましょう」の呼びかけの性質は単なる国民側に対する教育目的な文言に過ぎず、行政指導との性質が異なるのである。
    ③隣人同士の間で焚き火等によって損害を被った場合は、私人間の紛争は原則として、差止請求もしくは損害賠償といった民事裁判しか提起できない。行政法上の事前規制は主に公共福祉を害する恐れがる業者を想定するものである。その背景は60年代からの高度経済成長期の工業部門の環境汚染や騒音問題等によって住民の権利がしばしば侵害され、行政法は多数当事者、主に巨大な経済的・社会的な実力をもつ業者と比較的に弱い立場の住民の間の利害調整を図るためであった。行政はなるべく個人間の紛争に介入しないのが原則である。なぜなら、憲法上個人の自由を最大限に尊重すべきからである。
    今回のケースは仮に廃棄物を焼却する行為は軽微ではなく、違法な場合であっても、被害された側が自ら行政指導や行政処分を求めることはできない。もっとも行政事件訴訟法により、「非申請型の義務付けの訴え」(1号訴訟)等の抗告訴訟を提起することできるが、平成16年行政事件訴訟法が改正されるまで、根拠法令の保護対象による原告適格等の問題で違反是正命令の発令を求めた訴訟が不適法として却下される事例が少なくない。行政事件訴訟または民事事件訴訟を提起する前に、行政の手を借りてより簡易迅速な方法はないだろうか。
    2008年4月11日、第169国会に「行政手続法の一部を改正する法律案」が提出された。同法律案の36条の3は「何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる。」、一定の処分または行政指導を求める制度が盛り込まれたのである。改正手続法案36条の3第1項は「法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分」を挙げている。だが法令違反の範囲は不明確であり、行政処分違反に対する是正処置命令や法令違反に対する制裁処分、公益保護目的による禁止命令・中止命令の場合は如何なるのか疑問を感じ、ばるべく広く解すべきで、制裁処分や公益実現処分も含まれるべきである(常岡 ジュリスト24頁)。
    本件の焚き火のケースは「軽微」を越えた場合は、隣人など損害を与えるのみならず、環境への影響も出かねない。国の温暖化対策で温室ガスの削減目標も国民一人ひとりの協力が欠かせない。風俗習慣、宗教行事、農林漁業のためにやむを得ない必要がある場合を除き、庭先で廃棄物を焼却する行為は、個人といえども周囲の環境への配慮や温暖化対策等の公益の観点から、控えるべきだと思われる。「行政手続法の一部を改正する法律案」の「法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分」を公益実現処分まで法解釈が適用すれば、隣人はまず行政指導を求めることができ、行政指導によって、焚き火をやめ、私人間のトラブルも解決できる。
    20年までに日本の温室効果ガスの排出量を05年比で15%削減する中期目標を実現するためには今後、温室ガス排出の規制は業者だけだなく、立法主旨は個人への規制もある程度許容すべきであろう。今後...

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