第2章 修正

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    第2章

    プライバシー権とは
    第2章 プライバシー権とは?

    第1節 はじめに

     日本国憲法が保障している人権規定は、我が国の歴史において国家権力によって侵害されることが多かった重要な権利や自由を列挙したものです。例えば、憲法14条の平等権の保障や15条3項による男女普通選挙の保障、19条の思想の自由の保障などは、戦前の日本では国家によって規制されていた権利のため、戦後特に重要な権利として、日本国憲法に列挙されています。このように我が国の憲法では、戦前の国家権力によって侵害されることが多かった権利や自由を列挙しています。

     しかしながら、日本は今年で戦後71年を迎える中、社会状況も戦後の日本から今日の情報化社会へと変化しています。そのような状況では、憲法起草当時では考えられないような新しい個人の権利や自由が出現し、憲法のどの条文を根拠にして保障し、またどこまでの内容を保障するかという問題が出てきました。

     このような社会変動に伴って、「新しい権利」の憲法上の権利としての根拠となる一般的かつ包括的な権利が、憲法13条前段の「個人の尊重」原理を受けた、13条後段の「生命、自由及び幸福追求権」(幸福追求権)です。幸福追求権に基づく「新しい権利」は、裁判上の救済を受けることができる具体的権利として最高裁判所も認めています。

     今回のプライバシー権も「新しい権利」として保障されています。では、プライバシー権とは、どのような内容の権利なのか。それを次節で述べていきたいと思います。
    第2節 プライバシー権の展開過程

     プライバシー権は、アメリカの判例法の影響を受け、1960年代に日本でも憲法13条の幸福追求権を根拠にして認められた「新しい権利」です。日本においてプライバシー権は、1964年の*「宴のあと」事件の第1審判決にて「私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利」と定義され、私法上の権利の一つとして承認されました。その後、*京都府学連事件の最高裁判所の判決にて、警察権等の国家権力の行使、つまり公法上の領域に対しても、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしにみだりにその容ぼう、姿態を撮影されない自由を有する」として憲法13条を根拠にする権利として認めました。また、*前科照会事件で最高裁判所は、「前科及び犯罪経歴は、人の名誉、信用に直接関わる事項であり、これをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益」であることを認めました。このようにプライバシー権は、判例上で承認されてきた「私生活をみだりに公開されない権利」と言えます。
    第3節 自己情報コントロール権

     第2節で見てきたプライバシー権は、他者や国家に私生活を見られない、もしくは公開されないといった私的領域への介入を排除する消極的な権利であると言えます。これは、他者から自己の生活態様を侵害されない自由があることを指します。では、逆に自身から他人に対して自己の情報を見られない、もしくは公開されないように積極的にコントロールすることは、プライバシー権として認められるのでしょうか。

     「自己に関する情報を、いつ、どのように、どの程度まで他者に伝達するかを自ら決定する権利」を「自己情報コントロール権」と言います。自己情報コントロール権は、プライバシー権の自由権の側面(「個人に関する情報をみだりに、収集されないあるいは第三者に開示、公表されない自由」)と、それらが扱う自己情報について、積極的に閲覧・訂正・削除・目的外の利用禁止などを求める請求権の側面とを兼ね備えた権利と言えます。

     自己情報コントロール権が主張される背景には、戦後から今日までのIT技術の発展により、国家や民間企業といった巨大勢力がそれらを活用するようになりました。そしてその巨大勢力が扱うIT技術は、個人情報を収集・蓄積・利用し、私たちの知らないところで私たちのイメージを勝手に作ってしまう可能性を生みました。そのため、今日の社会状況は、誤った個人情報や個人イメージが伝播・流通する可能性が十分に考えられる社会状況に変容する方向へと向かっています。これらのことから、自己の情報を自身がコントロールできる必要が生じました。

     自己情報コントロール権について、最高裁判所も*江沢民講演名簿提出事件において、私人間の問題であるが、学籍番号・氏名・住所・電話番号という個人情報に関して「本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示したくないと考えることは自然なことであり、…本件個人情報は、原告らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象になる」と判断しました。また*住基ネット訴訟では、国家と個人との関係において「個人の私生活上の自由の一つとして、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」が保障されているとし、自己情報コントロール権の自由権の側面を認めました(請求権の側面は認められていない)。

     しかし、自己情報コントロール権は、請求権の側面を大きく持つことから、その側面を主張するためには、それを広く具体化するための法令の根拠が必要になるとされています。

     この請求権の側面を具体化するための法令は、地方公共団体では早い段階から数多くの自治体で個人情報保護条例として制定され、1988年には国で「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」が成立しました。そこから、住民基本台帳法の改正にあたって、住民基本台帳法と個人情報保護との関係が議論され、2003年に民間企業も対象となる個人情報保護の一般法として「個人情報保護法」が制定されました。同時に、1988年の上記法律を改正し、問題点だった訂正請求権を承認と罰則の強化した「行政機関個人情報保護法」が制定されました。

     このようにして、我が国のプライバシー権に基づく、個人情報保護の法制度が整い、プライバシー権が今日の私たちの人権として認められるようになりました。
    個人情報保護法の体系図(With The Wind ホームページより)

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