経済と中小企業

閲覧数1,145
ダウンロード数14
履歴確認

    • ページ数 : 3ページ
    • 全体公開

    資料紹介

    資料の原本内容

    単元Ⅰ「経済と中小企業」

    ■テーマ 『日本経済が直面している問題を一つ上げ、        あなたが考える処方箋を記してください。』

    現代の貧困

     ここ数年来、ワーキングプアという言葉をよく耳にする。感覚的に直訳すると貧乏な労働者といったところだろうか。元々は1990年代にアメリカで生まれた言葉で、「低賃金と養育費支払いのために、正規雇用に就いているにもかかわらず、貧困に近い状態にある個人や家族」(注1)を意味するそうだ。しかし、現在日本で言われているワーキングプアは少し意味が異なり、働く意欲を持ちながらフルタイムで働いても、日本国憲法が保障する「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」といった生存権規定、すなわち生活保護の水準以下の収入しか得られない就労者層を指す。

     現代の貧困は、戦後の日本が経験した飢餓状態のような貧困とは異なり、最低水準の生活をも送れないような状態である。この問題が現在の日本経済にどのような影響を与えているのか考えてみたいと思う。
    ワーキングプアの現状

     最初にワーキングプアと呼ばれる階層はどの程度のことを言うのか。さまざまな資料や文献を調べてみたが明確な定義は無く概ね年収が200万円以下の世帯を指すようだ。いったいその世帯はどのくらい存在するのか。平成18年 厚生労働省 国民生活基礎調査によると、全世帯の18.9%で約900万世帯程と推定される。全世帯の約2割がワーキングプア世帯とは驚きの数字である。

     では何故ワーキングプアといった状態が起きてしまうのか。ワーキングプアの雇用形態として、パート・アルバイト・派遣などといった非正規雇用が圧倒的多数を占める。当然賃金は時給ベースが圧倒的多数を占める。そこで週40時間労働を1年間(50週)行った時の所得を試算してみた。現在の北海道最低賃金705円だと年収は141万円、東京は837円なので167.4万円となる。このような所得層は「平成11年に17.9%であったが、平成21年には24.5%に増加している。」(注2)これは1年を通じて勤務した給与所得者データであり、日雇い・短期パートなどは含まれず、実態の数値は30%に迫ると予想される。

     次にワーキングプアの労働形態について少し触れておく。無年金の為、アルミ缶を拾い集め業者に売却し日銭を稼ぐ老人。離婚により母子家庭となり昼夜を問わずパートで働く母親。以前まで正社員として雇用されていたのに、企業のリストラで突然パートに降格させられた若者。彼らは皆、働く意欲を持ち一生懸命になって生きるために働き、その仕事は正社員と同等若しくはそれ以上の者も数多く存在する。それがどうして現在の様な社会になってしまったのか、原因と問題について考えてみる。
    ワーキングプアに関連する問題

    バブル経済の崩壊以降、企業は収益を確保するため人件費の抑制に力を注いだ。賃金の高い正社員の新規採用を抑え、派遣法の規制緩和を受けて人件費が安く企業の業績に合わせて雇用調整を行いやすいパートやアルバイト、契約社員、派遣社員といった非正規雇用の社員を増やしてきた。企業が存続していく為には当然必要な措置もあったであろうが、目先の収益にとらわれすぎていた感がある。この傾向は長期的に見ると企業にとってマイナスの要因となり得るのではないだろうか。団塊世代が定年を迎える現代、未来を担う若い人材が非正規の社員ばかりでは、企業の発展は望めないだろう。

    民間企業のみならず、近年では自治体発の官製ワーキングプアという言葉も生まれている。自治体の直雇用から民間委託業務、指定管理者制度などあらゆる場面でみられるようになった。役所自らが貧困層を作り出しているとすれば、本末転倒もはなはだしい。そして何よりワーキングプアが増加していくことは、国家の運営、社会保障の面においてもマイナス要因が非常に大きい。所得税(歳入)の減少による国債の増加、医療制度や年金制度の崩壊も現実味を帯びてくる。10年先、20年先を見据えた時に、現代社会の雇用形態で良いはずがない。企業は自社の利益・存続だけにとらわれず適切な賃金による計画的、安定的な雇用をしていくことが重要であろう。
    今後のあり方

     ワーキングプアを無くすことは就労者個人の為だけでなく、企業や国に対してもメリットが大きい。ではその対策としてどのようなことが考えられるのか。まず正社員と非正規社員との差を無くす。すべての非正規を正社員に格上げするのではなく、職務の内容が同じであるならば、最低でも賃金を同一の水準にするべきだ。たとえボーナスなどの手当てが無くても、就労者の所得は上がり税収や社会保障費も増えるだろう。就労者個人は増えた所得をなるべく消費に回す。需要が増加すれば当然供給が必要となり、内需拡大により経済は活性化していくだろう。

    企業は10年先を見据え、人材を育てていくことが必要だ。業務のコアとなる部分だけを正社員で固めるのではなく、コア以外の部分にも目を向けていくことが必要だろう。自治体にいたっては、官製ワーキングプアを絶滅するべく早急な制度改正が求められる。 

     最後に前述のような対策を進めていくうえで重要なことは、自己の利益にのみに捉われないことだ。常に周りを意識し自分一人や企業単体では生きていけないということを念頭に置き行動しなければならない。精神論になってしまうが、ハングリー精神という言葉が最近忘れ去られているようだ。私の中学生の息子に聞いてみると“聞いたことが無い”と返事があり愕然とした。現代社会で忘れ去られてしまったハングリー精神と周囲への思いやりを持って取組むことが、今一番必要なのかもしれない。

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。