基礎実習レポート環境系(毒性)

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    資料紹介

    資料の原本内容

    考察Ⅱ-3.1

    1)フェノバルビタール(以下PB)の前投与ではアニリン水酸化活性が促進され(Welch’s t-test:α=005),アミノピリン脱メチル化活性については対照との有意差が認められなかった(Welch’s t-test:α=0.05).ただし平均値や他班に外れ値があったことを考慮して,2種の酵素反応の特異性は認められないと判断した.このことから,PBの前投与は肝薬物代謝酵素活性を非特異的に促進し,肝臓で代謝される他の薬物代謝を促進する可能性があると言える.

    2)四塩化炭素(以下CCl4)の前投与はアニリン水酸化活性を抑制し(Welch’s t-test:α=0.05),アミノピリン脱メチル化活性については対照との有意差が認められなかった(Welch’s t-test:α=0.05).ただし平均値や他班に外れ値があったことを考慮して,2種の酵素反応の特異性は認められないと判断した.このことから,CCl4の前投与は肝薬物代謝酵素活性を非特異的に抑制し,肝臓で代謝される他の薬物代謝を抑制する可能性があると言える.

    3)PBは30%が代謝を受けずに腎排泄される.残りの約70%が肝で代謝され,その主代謝物はp-ヒドロキシ体とグルクロン酸抱合体であることが知られている.CCl4は主に肝臓でp450によって還元的脱ハロゲンを受け,トリクロロメチルラジカルを生成し,高い反応性を持つため肝障害の原因となる.

    4)薬物によってチトクロムp450が誘導されると,チトクロムp450で代謝される他の薬物の代謝が非特異的に亢進され,半減期が短くなると考えられる.一方,肝障害や薬物によって酵素活性が低下すると,チトクロムp450で代謝される他の薬物の代謝が抑制され,半減期が長くなると考えられる.
    考察Ⅱ-3.2

    原因:スペクトル測定の結果の吸光度値がマイナスになっており,バックグラウンドの設定や機器が正常に作動しなかったこと,測定操作が適切でなかった可能性がある.

    1)PBの前投与はチトクロムp450の含量を増加させたと判断した(Student’s t-test:α=0.05).このことから,PBの投与によってチトクロムp450は誘導されると言える.

    2)CCl4の前投与によるチトクロムp450の含量変化は,対照との有意差が認められなかった(Welch’s t-test:α=0.05).よってこの結果からは,CCl4の前投与によるチトクロムp450の含量変化に関して議論することはできない.

    3)実験3.1の結果と上記の考察をまとめると,PB前投与によってチトクロムp450が誘導されて肝薬物代謝活性が上昇するのに対し,CCl4前投与ではチトクロムp450への影響は明確でなかったが肝薬物代謝活性は低下した.このことから,PB前投与ではシトクロムp450の増加に起因して肝薬物代謝活性が上昇し,CCl4前投与での肝薬物代謝活性の低下は必ずしもシトクロムp450の含量の変化に起因しないと言える.

    4)チトクロムp450は一酸化炭素と結合して450nm付近に極大を持つようになるが,過剰量での反応によって変性し,420nm付近にピークが現れる.ヘモグロビンなどポルフィリン環を持つタンパク質に特有のSoret帯が変性によってシフトしたことも考えられるが,発現量の多いフェノバルビタール前投与群のピークがより大きいことから,チトクロムp450の変性による影響が強いと考えた.

    考察Ⅱ-3.3

    1)ペントバルビタールは腹腔内投与された薬物は腹膜を通過して毛細血管やリンパ管から体循環血に分布する.臓側腹膜から吸収された薬物は門脈に入り肝臓で代謝を受ける.ペントバルビタールは弱酸性薬物で脂溶性が高く,血液脳関門を容易に通過し脳に分布する.中脳網様体においてGABAA受容体に選択的に結合することでClチャネル開口を延長し,過分極を起こす.これにより抑制性神経機能が亢進し,催眠効果を発現する.

    2)可逆的にGABAA受容体に相互作用していたペントバルビタールは,血中濃度の低下とともに平衡状態が変化して受容体から離れ,他の臓器に最分布して代謝・排泄を受ける.ペントバルビタールと受容体の結合がなくなることによって上向性脳幹網様体賦活系の抑制が解消され,薬効が消失する.

    3)PB前投与群では,対象に比べて早く覚醒するマウスが多いことから薬効の持続時間が短くなっていると言える.このことから,PB前投与で誘導されたCYPがペントバルビタールの代謝に関与していると言え,CYPには厳格な基質特異性が存在しないと考えられる.なおPBによるCYPの誘導は,PBが核内受容体であるCARに作用し,転写を活性化することに起因しておこることが明らかにされている.一方CCl4前投与群では,長時間経過しても対照に比べて覚醒するマウスの割合が少ないことから,薬効の持続時間が長くなっていると判断した.このことから,CCl4代謝物に起因する肝細胞障害によってペントバルビタールの代謝に関与するCYPの活性を低下させた可能性があると言える.

    4)実験3.1,3.2,3.3の結果から,PBは様々な代謝反応に関与するCYP発現を誘導し,前投与によって非特異的に薬物の代謝を亢進させて薬効を低下させる一方で,CCl4は代謝されて肝障害をひき起こし,CYPを含む肝薬物代謝酵素系の活性を低下させることで非特異的に薬物の薬効を増強させると考えられる.以上のことから,CYPの含量および活性が薬効,とくに薬物の体内での半減期に大きく影響すると言える.また,CYPの反応においては基質特異性が厳格でないことから,構造に類似点が少ない薬物間でも薬物相互作用が起こる可能性があると考えられる.

    5)アルコールを大量に摂取すると肝ミクロソームの特異なチトクロムP450が誘導され,アルコール以外の薬の代謝が亢進する.アルコール常用者のトルブタミドの血漿中半減期は380分から190分へと半減し,約2倍も代謝が亢進する.
    考察Ⅱ-3.4

    1)標準偏差を考慮した統計処理を行わず,陽性の基準を対照群で計数された二倍以上のコロニー数があることとした.自班は物質Aについて試験をおこなった.グラフ4.1から,S9の有無にかかわらず変異原性は陽性であり,S9による代謝活性化はないと判断した.ただし自班,他班ともに外れ値が生じており標準偏差も非常に大きいため,代謝による変異原性の変化の推定を正しく行えなかった可能性がある.

    2)今回用いた物質A,Bは,既知変異原性物質である2AAとTA-2のどちらかである.また2AAはCYPによる代謝活性化がなく,TA-2はCYPにより代謝活性化されることが知られている.1)で述べた自販の結果とグラフに示した他班の結果を考慮して,S9mix+でコロニーが増加しているAがAF-2であり,代謝の有無による差が認められないBが2AAであると推定した.しかし前述のように標準偏差が非常に大きく複数の班で外れ値が生じている.よって今回の結果は信頼できず,無菌的に操作を行うなど空気中や試料中に細菌が混入しない条件で試験をやり直す必要がある.

    3)実験3.3の結果から,PB処置を行った生体中では薬物代謝活性が対照より大きく,CCL4処置を行った生体中では対照より小さいことが分かる.2AAは代謝活性化の影響を受けず,PB処置による薬物代謝活性の上昇やCCL4の肝障害による代謝活性の低下の影響を受けず変化しないと考えられる.ただし,CCL4処置の生体ではCYPのみならず第2相反応に関わる酵素活性も減少している可能性があるため,2AAの代謝・排泄機構によっては変異原性が上昇すると考えられる.一方でAF2は代謝活性化を受けるので,PB処置生体内ではより高い変異原性を示し,CCl4処置生体内では対照と比べて変異原性は減少すると考えられる.

    4)化学物質の中には,直接発がん性を示す一次発がん物質と,生体内で代謝されて発がん性を示す二次発がん物質が存在する.ベンゾ[α]ピレンなどの多環式芳香族炭化水素類はシトクロムP450によって代謝活性化され,究極的代謝活性体であるエポキシド体になる.その他にも芳香族アミン類や芳香族ニトロ類などがCYPに代謝活性化されて発がん性を示す.
    感想・要望

    実習レポートに関して,他の分野と同様にパソコン可にしていただきたかったと思います.内容をまとめる上で,手書きだと加筆・削除に手間がかかり非効率的であるなど,手書きにするメリットがないように思います.

    実習内容は概要を読むだけでは分かりにくい部分もありましたが,原理などをテキストで見て追うだけではなく,実際に操作することでどういうふうに実験を進めるのかを体感でき,また原理や操作上の注意点に対する理解が深まり,とても有意義でした.末筆になりましたが,多くのことを学ぶ機会を与えて頂き,丁寧にご指導くださった教員の先生方およびTAの先輩方に感謝の意を表したいと思います.

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