Ⅵ-1 旋削加工精度

閲覧数2,389
ダウンロード数58
履歴確認

    • ページ数 : 10ページ
    • 全体公開

    資料の原本内容

    序論

    機械工作または機械加工とは,工作機械,工具,工作物とが三位一体となって行われるもので,工作機械が「工具と工作物との間に適切な相対運動を与えることによって,所望の寸法・形状を持った部品や製品を作り出す」というものである.

    工作機械による部品や製品の加工は,「工作機械の精度は,これによって作られる部品精度に転写される」という母性原理に基づいている.すなわち,「工具と工作物間に適切な相対運動を与えることで,所望の表面を創成する」のが工作機械である.

    したがって,加工精度を左右するものはこの相対運動の精度であるから「工具と工作物間に理想的な直線運動を与えれば,理想的な直線物が,理想的な回転運動を与えれば,真円状のものができる」はずである.

    ところが実際には,加工に伴って発生する力,熱,振動などがこの相対運動の精度を乱すことになり,所望の寸法・形状を持った部品や製品を作り出すことは不可能である.

    本実験では形状や寸法誤差よりもさらに小さい加工表面の凹凸,すなわち,仕上げ面粗さに着目し,理想粗さならびに実際の仕上げ面粗さに及ぼす切削速度の影響を考察することを目的とする.
    理論解析

    旋削における刃先仕上げ面の様子

    幾何学的に言えば,旋削では工作物が回転し工具が軸方向に送られるため,工作物表面上を工具は螺旋を描きながら進む.したがって,工作物表面はねじ状の溝(凹凸)が形成され,その溝の様子は切削条件によって定まるといえる.
    図2.1.1 旋削における刃先仕上げ面また,そのときの模式的な様子を図2.1.1に示す.
    旋削による粗さ

    旋削による粗さは,以下(1)~(5)に示す5要素からなると言われている.
    理想粗さ

    理想的な切削状態においては,切れ刃の形状と送り量から幾何学的に決まる形状と大きさを持っており,工具と工作物間の相対運動から幾何学的に定まる粗さを,理想粗さ,幾何学的粗さもしくは送りマークと呼ぶ.また,理想粗さH1は,図2.2.1より以下のような関係式が得られる.
    図2.2.1 旋削における理想粗さH1

    (a)円弧の部分だけが転写されるとき
    ただし

    (b)円弧のほかに一方の直線部が転写されるとき
    ただし

    (c)円弧と両方の直線部が転写されるとき
    ただし

    (d)工具先端が尖っているとき
    構成は先の生成・脱落によって生ずる粗さ

    切削機構自体が持つ不安要素・材料の盛り上がりなどから生じる粗さ

    切れ刃-工作物の相対位置が変動するために生ずる粗さ

    切れ刃の欠損・摩耗から生ずる粗さ
    表面性状パラメータ

    表面性状(加工の際に仕上げ面に生じる凹凸や筋目)は,触針式表面粗さ測定器により加工表面の凹凸を触針でなぞり,得られた輪郭曲線をもとにして求めたパラメータによって表示する.また,このようにして表面性状の特性を直接測定する方法を輪郭曲線方式という.

    また,表面性状パラメータとは,輪郭曲線パラメータ,モチーフパラメータ,負荷曲線に関するパラメータの総称である.このうち,輪郭曲線パラメータには,粗さパラメータ,うねりパラメータ,断面曲線パラメータがある.

    以下,これらパラメータの中で一般に多く使用されている粗さパラメータの算術平均粗さ,最大高さ粗さについて説明する.

    算術平均粗さ(Ra)

    図2.3.1のように,粗さ曲線からある長さ(基準長さという)を抜き取り,平均線の下側にある部分を平均線で折り返し,斜線部の面積を平均線と平行になるようにならしたときの高さである.
    図2.3.1 算術平均粗さ(Ra) の求め方

    最大高さ粗さ(Rz)

    図2.3.2のように,粗さ曲線の基準長さにおける,山高さの最大値Zpと谷高さZvとの和を求めたものである.
    図2.3.2 最大高さ粗さ(Rz)の求め方
    周速度

    工作物の直径D[m],旋盤の回転数n[min-1]であるとき,周速度v[m/s]は以下の式の通りである.
    金属切削における摩擦係数

    刃面の摩擦帯に作用する力を計算するには,Px-およびPz から,逃げ面に作用する力F1 ならびにN1を差し引かなければならない.

    計算によって力Fと垂直力Nが分かれば,刃面における摩擦係数を,F/Nの比により定めることができる.

    バイトに作用する全合力R0は刃先に直角な平面上に作用しているので,
    図2.5.1 切削による切削力

    摩擦係数は
    となる.

    また
    摩擦角
    摩擦力
    垂直力
    となる.

    ここで

    :切削方向に対しての,刃面に作用する切削合力の方向

    P1 = Pn:背分力

    である.
    実験方法

    実験装置

    旋盤

    旋盤とは,円柱状の工作物を回し,それにバイトと呼ばれる刃を当て,工作物を削る工作機械であり,機械加工でもっともよく使用される機械である.
    図3.1.1 普通旋盤の例
    切れ刃

    本実験に使用する切れ刃は,スローアウェイチップと呼ばれるもので,先端半径は0.4[mm]である.また,外形寸法ならびにメーカーカタログをそれぞれ図3.1.2,表3.1.1に示す.

    [仕様]

    東芝タンガロイ(株)製



    図3.1.2 チップ外形寸法型番 : TNMG160404-11

    材種 : NS530

    特徴 : 耐摩耗性と対欠損性を兼ね備えたニュータイプのサーメット材種

    湿式切削でも優れた性能を発揮

    用途 : 高速から低速まで広範囲な切削条件下での鋼系材料の旋削加工用



    表3.1.1 スローアウェイチップの仕様






    切削動力計

    図3.1.3のようなひずみゲージ式拙作動力計を用い,切削力の三成分 (主分力Pt,背分力Pn,送り分力Pf ) を測定する.
    図3.1.3 ひずみゲージ式作動力計
    実験方法

    切れ刃取り付け角の測定

    切れ刃が工作物に対して,どのような角度で取り付けられているかを,分度器を用いて測定する.

    切削実験条件

    切削速度が仕上げ面粗さに及ぼす影響を検討するために,切削速度(工作物回転数)以外の条件は一定とする.切削実験条件は表3.2.1の通りである。

    表3.2.1 切削実験条件

    工作物材質  

    S45C

    設定切り込み深さ t

    0.2[mm]

    切り込み深さ f

    0.1[mm/rev]

    チャックの回転数 n

    550[min-1]

    切削と切削力の測定

    切り込み送りは一定とし,工作物回転数を1800[min-1],1020[min-1],550[min-1],275[min-1],155[min-1],83[min-1],の順に変えて計12回の切削を行う.またこのとき,ひずみゲージ式作動動力計を用い,主分力Pt及び背分力Pnを測定する.また,工作物は工作物回転数を変更するごとに新しいものと取り換えるものとする.

    切削後の工作物表面の観察と測定

    肉眼または拡大鏡を用いて加工表面,切粉の様子を観察する.また,加工表面については,粗さ測定器を用い粗さ曲線を得る.
    実験結果

    4.1計測結果

    計測結果は以下の表4.1.1のようになった.ここで,理想粗さH1[m],周速度v[m/s]はそれぞれ2.理論解析の(2.2.1)式ならびに(2.4.1)式を用いた.また,算術平均粗さRa[m],最大高さRz[m],については,触針式表面粗さ測定器により計測した値である.また,ペンレコーダによって計測された,主分力Pt[N]・背分力Pn[N]の最大値を読み取った各値を表4.1.2に示す.
    表4.1.1 計測結果
    表4.1.2 ペンレコーダによる主分力・背分力の最大値
    次に,回転数n[min-1]と,理想粗さH1[m],算術平均粗さRa[m],最大高さRz[m]を比較したグラフを図4.1に示す.
    図4.1.1回転数n[rpm]に対する理想粗さH1,算術平均粗さRa,最大高さRz
    次に,回転数n[min-1]と主分力Pt[N]・背分力Pn[N]の最大値の関係をそれぞれ,図4.1.2,図4.1.3に示す.
    図4.1.2主分力と回転数の関係
    図4.1.3背分力と回転数の関係
    次に,触針式表面粗さ測定器の計測結果を図4.2.1~図4.2.6に,ペンレコーダの計測結果を図4.3.1~図4.3.24に示す.
    考察

    表面色について

    まず,表4.1.1より,切削速度(工作物回転数)以外の条件は一定であることから,工作物は,幾何学上全て同じ形状になるはずである.しかし,実際に切削した工作物の表面を見ると,高回転であるほど表面に光沢が見られ,表面の色は金色のようなテーパーカラー(光の干渉によって生じる着色現象)が生じ,また,低回転であるほど,表面の色が白銀もしくは白っぽい灰色になった.

    次に,図4.1.2,図4.1.3より,それぞれの回転数に対する,切削回数1回目と2回目について比較して見てみると,回転数n=1800[rpm]のとき,背分力Pn ≒ 5.0[kgf]と他の回転数の時よりも最も高い値を取っていることが分かる.

    (2.5.3)式より,摩擦力は背分力Pnに比例して大きくなることが分かるので,回転数n=1800[rpm]のとき最も摩擦力が大きくなると考えられる.すなわちこれは,このときに最も大きな摩擦熱が発生することを意味している.

    したがって,高回転時では特に大きな摩擦熱が発生すると考えられ,また,特に回転数が1800[rpm]のときは,その熱により,切りくずならびに炭素鋼の表面が酸化し,テンパカラーが生じたと考えられる. また,少し金色もしくは茶色を含んでいたのは,摩擦熱により炭素鋼の表面が焦...

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。