3-5スピノル(イメージ重視)

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    スピノル(イメージ重視)
    群論などまだ必要ではないわ!
    別角度から見るスピン
     我々は大事な事を忘れていた。 x, y, z の3軸だけに注目していて、その中間の状態を考えて来なかった。 どの方向も対等なはずなのだ。 全方向に対応できる方法を知っておきたい。 でなければ、前回の最後に出てきたような問題に対しては無力だ。
     例えばこんな考え方をしたらうまく行くだろうか・・・。 思いつくままにだらだらと書いてみるので、急いでいる人はこの節を飛ばしてもらって構わない。
     これまで3軸についてのスピン行列 sx, sy, sz というものを使ってきた。 そしてそれぞれの固有状態を導くことで前回のような議論が可能になったわけだ。 ということは、測定装置を少し傾けた時にどんな状態になるかを知りたければ、各軸を傾けた状態での s'x, s'y, s'z という行列の形を何とかして探してやることが必要になるだろう。 それが分かれば、それを使って固有値と固有ベクトルが求められる。 いや、固有値はきっと計算するまでも無く± /2 となるに違いない。 本当に知りたいのは固有ベクトルの形だ。 その固有ベクトルと、例えば「x 軸上向き」状態の固有ベクトルとの内積を求めてやれば、「x 軸上向き」となった後の次の測定でどの程度の割合で「上向き」と「下向き」が実現するかが分かるだろう。
     しかしそのような新しい行列を一体どうやって求めたらいいのかが問題だ。 簡単そうでいて、なかなか単純に思いつくようなものではない。
     では少し視点を変えてやったらどうだろう。 測定装置だけを傾けるのではなく、自分も装置と一緒に向きを変えるのだ。 こうすれば、自分から見て測定の方向は何も変化しないのだから、行列の形は今までと変わりないものを使えばいいことになる。 しかし測定結果(すなわちフィルターを抜けてくるビーム強度)は今までとは少し違うものが得られるだろう。 何が変わったせいでそうなったと言うべきか。 自分にとって見れば、状態の方が変わったのだと考えるしかない。
     自分が向きを変えると状態が変化して見える。 当たり前と言えば当たり前だ。 ユニタリ変換というのは状態を別の視点から眺めたことに等しいという話をこれまでにもしてきた。 しかしユニタリ変換は固有値を変化させない変換だと前に説明したことがある。 今の話のように現象が変わってしまうのとは話が何か違うようだ。
     そこで別のケースを考えてみよう。 装置を動かさずに自分だけが視点を変えたらどうなるか。 状態は変化して見える。 そして自分から見れば装置の角度もずれたように見えるから、使うべき行列も変化して見える。 しかし自分だけが動いたのだから、得られる測定結果には何の変化も見られないはずだ。 こういう時こそユニタリ変換の出番なのだ。 元々、
    という関係があるのなら、
    が成り立っていると言えるから、
    という変換を考えれば、
    が成り立ち、視点を変えても元の関係を崩す事がない。
     要するに、状態がある固有状態にあるときに、自分が視点を回転させると、状態も変わるし使うべき行列も変わる。  自分が -θ だけ回転すれば、装置を θ だけ回転させたのに等しい。 その時に行列 としてどんなものを使えばいいのだろうかなどとわざわざ具体的に求める必要はない。 欲しいのは固有ベクトルだ。 行列を求めなくてもその場合の固有ベクトルは簡単に得られる。  のようなユニタリ変換をしたものが、すでにその行列の固有ベクトルになっているからだ。
     どのよう

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    資料の原本内容

    スピノル(イメージ重視)
    群論などまだ必要ではないわ!
    別角度から見るスピン
     我々は大事な事を忘れていた。 x, y, z の3軸だけに注目していて、その中間の状態を考えて来なかった。 どの方向も対等なはずなのだ。 全方向に対応できる方法を知っておきたい。 でなければ、前回の最後に出てきたような問題に対しては無力だ。
     例えばこんな考え方をしたらうまく行くだろうか・・・。 思いつくままにだらだらと書いてみるので、急いでいる人はこの節を飛ばしてもらって構わない。
     これまで3軸についてのスピン行列 sx, sy, sz というものを使ってきた。 そしてそれぞれの固有状態を導くことで前回のような議論が可能になったわけだ。 ということは、測定装置を少し傾けた時にどんな状態になるかを知りたければ、各軸を傾けた状態での s'x, s'y, s'z という行列の形を何とかして探してやることが必要になるだろう。 それが分かれば、それを使って固有値と固有ベクトルが求められる。 いや、固有値はきっと計算するまでも無く± /2 となるに違いない。 本当に知りたいのは固有ベクトルの形だ。 その固有ベクトルと、例えば「x 軸上向き」状態の固有ベクトルとの内積を求めてやれば、「x 軸上向き」となった後の次の測定でどの程度の割合で「上向き」と「下向き」が実現するかが分かるだろう。
     しかしそのような新しい行列を一体どうやって求めたらいいのかが問題だ。 簡単そうでいて、なかなか単純に思いつくようなものではない。
     では少し視点を変えてやったらどうだろう。 測定装置だけを傾けるのではなく、自分も装置と一緒に向きを変えるのだ。 こうすれば、自分から見て測定の方向は何も変化しないのだから、行列の形は今までと変わりないものを使えばいいことになる。 しかし測定結果(すなわちフィルターを抜けてくるビーム強度)は今までとは少し違うものが得られるだろう。 何が変わったせいでそうなったと言うべきか。 自分にとって見れば、状態の方が変わったのだと考えるしかない。
     自分が向きを変えると状態が変化して見える。 当たり前と言えば当たり前だ。 ユニタリ変換というのは状態を別の視点から眺めたことに等しいという話をこれまでにもしてきた。 しかしユニタリ変換は固有値を変化させない変換だと前に説明したことがある。 今の話のように現象が変わってしまうのとは話が何か違うようだ。
     そこで別のケースを考えてみよう。 装置を動かさずに自分だけが視点を変えたらどうなるか。 状態は変化して見える。 そして自分から見れば装置の角度もずれたように見えるから、使うべき行列も変化して見える。 しかし自分だけが動いたのだから、得られる測定結果には何の変化も見られないはずだ。 こういう時こそユニタリ変換の出番なのだ。 元々、
    という関係があるのなら、
    が成り立っていると言えるから、
    という変換を考えれば、
    が成り立ち、視点を変えても元の関係を崩す事がない。
     要するに、状態がある固有状態にあるときに、自分が視点を回転させると、状態も変わるし使うべき行列も変わる。  自分が -θ だけ回転すれば、装置を θ だけ回転させたのに等しい。 その時に行列 としてどんなものを使えばいいのだろうかなどとわざわざ具体的に求める必要はない。 欲しいのは固有ベクトルだ。 行列を求めなくてもその場合の固有ベクトルは簡単に得られる。  のようなユニタリ変換をしたものが、すでにその行列の固有ベクトルになっているからだ。
     どのようなユニタリ変換を使えば状態の見え方の変化が表せるか、ということさえ分かればすべて解決だというわけで、考え方自体は複雑ではなさそうだ。
    スピノルという概念
     スピンというのは2成分の複素行列で表され、それがスピン状態を表す全てなのだった。 我々がこれからやろうとしているのは、 3次元での回転によって、 2成分の行列がどのような変化を受けるのかを調べることである。
     3次元での回転によって3成分のものがどう変化するかというのであれば、それはお馴染みの「ベクトル解析」と呼ばれるものであり、これまでもよく議論してきた。 また 3n 個の成分が座標の変化と共にある変換規則に従うものは n 階のテンソルと呼ばれ、それを論じる分野は「テンソル解析」と呼ばれている。 ベクトルは1階のテンソルだと考えることが出来、テンソル解析はベクトル解析の拡張になっていたのだった。
     ところが今、この範疇に入らないもの・・・ベクトルでもテンソルでもない新たな変換規則に従うものを議論する必要に迫られているのである。 スピンに関連して現れたこの新たな概念をベクトル (vector) やテンソル (tensor) の命名に倣って「スピノル (spinor)」と名付けよう。 新たな数学の誕生である!
     ちなみに英語圏ではこれらを「ベクター」「テンサー」「スピナー」のように発音する。
    座標変換の確認
     しかし3次元での回転に対して、一体どのようなユニタリ変換を対応させたら良いのかは依然として不明である。 ここは一旦スピンにこだわるのはやめて、普通の波動関数の場合にどのようなルールがあるのかを調べて、それをスピンに当てはめる事ができないか、という流れで考えてみよう。
     まずは自分が -θ だけ回転した時、つまりその時、相対的に波動関数全体が θ だけ回転したように見えるのだが、その関数が自分にとってどう見えるか、つまり、どう表されるべきかということから考えよう。
     こういうことを考え始めると私はいつも頭がこんがらかるのだ。 こういうことで悩んだ経験のない賢い人たちはちょっと黙っていて欲しい。
     まずは非常に簡単な例で確認しておこう。 f(x) = 3x という関数を考える。 原点に立っていた自分が x 方向に -2 だけ移動したとしよう。 これで、x = -2 の地点が自分にとっての新しい原点 x' = 0 となった。 自分がこの関数を眺めると、x' = 2 のところでこの関数の値が 0 になっている。 つまり、この関数は自分にとっては f (x) = 3x - 6 という形に変わって見えるわけだ。 異なる形の関数を前と同じ記号 f (x) で表すのは混乱を招くので、 f ' (x') = 3x' - 6 と表しておく方がいいだろう。 今は関数の形がどうなるかということだけに関心があるので、あまりこだわらずに f ' (x) = 3x - 6 と書くだけでもいいとは思うが。
     座標を x → x' に変更したときに f (x) → f ' (x') を導くための処方箋をはっきりさせておきたい。 まず、
    という関係が成り立っている。 これは x 系での原点が x' 系では x' = 2 に相当することを示している。 これを使えば、
    と計算できて、f ' (x') = 3x' - 6 が導かれる。
     一体この話のどこで混乱するんだと思うくらい簡単な話だ。 その通り。 混乱しないように簡単な話をしたのである。 これを忠実になぞる形で次の話をする。 この基本の話を忘れるから、おかしな道に迷い込むのだ。
    座標の回転
     3次元での回転による座標変換は3行3列の行列で表す事が出来る。 例えば、x y 平面で(つまり z 軸を中心に)θz だけ回転させる場合には次のような形になるのだった。
     新しい座標系 r' ( x', y', z' ) と古い座標系 r ( x, y, z ) との間に、 r' = R r という関係がある。  ところで、教科書によっては
    という別の形の変換行列が載っている事がある。 これが混乱の元だ。 これは ( x, y, z ) で表されているベクトルを θ だけ回転させたらどちらを向くか・・・その回転後のベクトル ( x', y', z' ) はどう表されるべきかを計算するための行列であって、やはり r' = R r の関係がある。
     これを先ほどの「非常に簡単な例」になぞらえれば、初め自分は x にいて、-2 だけ移動したのだから、移動後の自分はどこへ行くか・・・その座標 x' はどこか?を計算していることに相当する。 もちろん答えは x' = x - 2 である。 前に使ったのとは逆の変換になっている。
     私がこれから使うのは前者の回転行列だ。
    無限小回転
     どうせやるなら z 軸周りだけでなくて、もっと一般にどの方向へも回転できる行列を考えたい。 そのためには、3軸それぞれの変換行列を用意して積を取る事になる。
     しかしそうすると非常に複雑な行列が出来上がってしまうし、積の順序によって結果が変わってきてしまうという大問題もある。 x 軸の周りに回転させてから y 軸の周りに回転するのと、その逆の手順で回転させるのでは結果が違うのである。
     その問題を回避するためには、ひとまず無限小の回転 dθ を考える事にすればいいのである。 sin や cos はテイラー展開して1次の項まで取ればいい。 そうすると先ほどの行列は次のようになる。
     x 軸や y 軸周りの回転行列も似たような形になる。 ついでだから書いておこう。
     そしてこれら3つの回転行列の積を取ってやろう。 途中で現れる dθ の2次以上の項は無視してやることにすると次のような行列が出来上がることになる。
     なんと! これは回転の順序によらずに同じ結果が得られるのである。 余計な心配が要らなくなるのは大変ありがたいことだ。
     座標ベクト...

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